「武造とマツの物語(新)」

【小説】 身体障害者に理解がない時代にマツは、幼少のとき親同士で決め

た「ろうあ者」との結婚のため養女にいく。偏見や逆境に遭いながらも前向きに生きていく。



2010年05月19日

第73話 せめて・・欄間だけは・・・

(小吉が・・欄間泥棒か・・・)

お客さんたちが店から出た後、マツは大島家の女将に「雪菜」を売ってからすぐに家に帰ります。

ソリに積んで持っていった雪菜は完売です。

マツが帰ると武造が走り寄ってきて、両手でマツの赤らんだ手を覆い温めます。

雪菜が全部売れてたので、ヨネも大喜びです。

{あの・・オラ、大島家で聞いただー、お客さんたちが話してただー、もしかしたら欄間を盗んだのは小吉かもしれねー}とマツは少し興奮ぎみに話します。

マツのその言葉に関衛門は、身を乗り出し・・{マツ、どんなことを聞いてきただかー、もっと話してけろ!}と。

マツが店で聞いたことを話すと、関衛門はしばらく沈黙し・・

{せめて欄間だけは・・・取り返したい・・・これから小吉の家に行ってくる}と言い、出かけて行きました。


小吉の家は、廃材を使って建てたかのような古くて隙間だらけの家でした。その家に欄間だけが立派で、どう見ても新しく入れた欄間はこの家にはもったいないものでした。


関衛門の訪問に、小吉は少々戸惑います。

{オラの家に何のようだ!}

小吉の表情と声の調子を敏感に感じ取った関衛門は、(やはり小吉が欄間を盗んだんだ)と確信します。

それでも、関衛門は穏やかな表情をくずさず{オメーも知ってるとおり三月に入ったらすぐにオラの家は引っ越しするだー、曳家(ひきや)も頼んであるが、引いてくるにはたくさんの人の力が必要だー、それで、オメーもその時、手伝ってくれねーか!?}と引っ越しの手伝いを頼む関衛門。

欄間のことを聞かれなかったので小吉は少し安心し、{もちろんだ!その時は手伝うつもりだ!・・}

{手伝ったお礼にちゃんと礼金は払うからな!}と関衛門が言うと、ますます気分を良くした小吉は、 {引っ越しで困ったことがあったら言ってけろ!オラに出来ることは何でも手伝ってあげるだー}

{ほんだかー、それはありがてーだー、ところでオメーに聞きてーことがあるだー、オラの新しい家から襖や障子、それに欄間が盗まれていただー、オメー、何か聞いてねーかー?}と関衛門。

少したじろぎながら小吉は{なんも聞いてねー}と。

{ほんだかー、それは残念だ・・・あの欄間はオラもとっても気に入ってたもんで・・・}と肩を落としガッカリする関衛門。

関衛門はそれ以上話せずに、{ほんでは、引っ越しの時はよろしく頼むなー}と言い帰りました。

関衛門が、欄間を取り返すことができなかったことで、武造は落ち着かなくなります。

そして、人差し指を曲げて泥棒といいます。


武造は、しばらくウロウロしながら、何か思いついたような顔をして、自分が小吉の家に行ってくると言いだしました。

そして、ソリを引いて出かけます。

{オラも武造と一緒に行ってくるだー}とマツ。

posted by junko at 17:41| Comment(0) | 武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年05月18日

第72話 行商で「雪菜」を売りながら・・・犯人が!?

{寒さもだいぶ和らいできただー、オラ、そろそろ行商で雪菜を売ってくるべー}

関衛門の子孫に対する熱い思いを知ったマツは、少しでも金を稼いでこようと思ったのです。

{マツ、オメーは大事な体だ、寒さも和らいだといってもまだまだ寒い、オメーの体にもしもの事があったらいけねー!来月の始めから引っ越しするから、引っ越しが終わって落ち着いてから行商に行ったらえぇ!}と関衛門は常にマツの身を気遣います。

{ほんだか・・・、でもオラ、少しでも家計の助けになりてーだ!!}とマツ。


それまでマツは、行商という仕事が好きではありませんでした。

マツは、ヨネに行商の売上を毎回チェックされることから、売らないと家に帰れないという重圧を感じていました。


その好きになれなかった行商の仕事を自分からしようと思ったのです。

新たに生まれてくる子のために、そして藤原家のためにです!!


{オラ、大丈夫だ!!オラには何件かお得意さんがおるだー、そこに行って雪菜を売ってくるだー}とマツ。

そう言われても・・・渋る関衛門。

{行かしたらえぇーではないか、実際にこれからは、オラたちの家系も今までのようにはいかねー、マツが行商で少しでも金を稼いできたら助かるではねーか}とヨネ。

{マツ、体を冷やさんようにしっかり厚着してけろ!オラは雪菜を掘り出してくるべー、今年は雪がいっぱい降ったから雪菜もいい出来だず!}とヨネは、雪の下で育った雪菜を掘り出しに行きます。

マツが行商の支度をしてると、武造が「そり」を持ってきて、雪菜をその上に載せました。

マツの身が心配になった武造は、マツと一緒に行商に自分も行くと言います。

{オラ、一人でも大丈夫だ!}とマツ。

{マツ、雪で滑らねーように、注意して歩いて行ってけろ!}と関衛門。

行商先のお得意さんは、どこも皆雪菜を買ってくれました。

マツは、最後に一番のお得意さんである大島家「お菓子屋」に行きます。

お店に入ろうとしたら、店の中には村の奥さんたちが買い物をしています。

マツは、店の入り口でお客さんたちが帰るのを待つことにしました。


店の中から、話し声が聞こえてきました。

{この前、オラ、小吉の家に行っただー、そしたら小吉が自慢げに欄間を見せてくれただー、立派な欄間でオラ、びっくりしただー}

{ほー、小吉の家がかー?どうして小吉の家がそんな立派な欄間を買えたんだべ!}

{オラもそれが気になって聞いてみただー・・・小吉は知り合いから譲ってもらったと言っただー}

{んだかー(そうかー)かなり安くで譲った人がおったんだなー}



店の入り口にいたマツの方が驚きました!!

(欄間を盗んだのは、小吉か・・?)



ラベル:行商 雪菜 犯人
posted by junko at 16:30| Comment(0) | 武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年05月14日

第71話 子孫への思い

{欄間も無くなってるし・・襖も障子もぼろぼろではねーか・・・}

{誰がこんなことを・・・}


新しく購入した家から立派な欄間が盗られてなくなり、襖、障子
も古くて変色し破れたものに入れ替えられたことを知った関衛門とヨネは、戸惑いと落胆を隠しきれませんでした。


「家を売ってくれた人に状況を話したら、誰かが家に入ったところを見てないし、何も知らないということでした。かえってこのようなことがあり、関衛門たちを気の毒に思ったようです」


足取り重く家に向かいながら、関衛門とヨネは、犯人が誰かいろいろと考えめぐらしました。


暗い表情で家に着くと、関衛門とヨネの表情を敏感に感じ取った武造は、何があったかを尋ねます。

関衛門は武造に分かるように身ぶりで説明します。

何があったかを理解した武造は、人差し指を丸く曲げ(フック形)、そんなことをした人は、泥棒だ!といいます。

「武造が、人差し指を丸く曲げる(フック形)ことは泥棒のことを表していました。」


{誰にも見られねーように夜の間に自分の家の襖と障子を入れ替え、欄間をはずしていったんだ・・・もし、この下井村の人がやったとすると・・・・オラたちは、この村で「よそ者」と見られてるだー、慎重に行動しねーといけねーな・・・・オラたちが家を買ったことをねたんだ村人が犯人にちがいねー}と関衛門は自分たちをねたんだ村人がやったと思います。

{ほんだら、取りかえさねーだかー?オラたちは家を買って、そのために土地も買っただー、またこれから、田んぼも買わねーといけねー、いつまでも人から借りていてはいけねーからな・・・それで、蓄えはほとんど無くなるだー、新しく襖や障子、それに欄間を買う金はねーど・・}と語るヨネの声に力がありません。


{今は辛抱しなければならねー、感情的になって取り返しにいったら「よそ者」のオラたちは、この村でますます住みにくくなる・・・・オラたちの時代ではここでは「よそ者」だが、この村にオラたちの家を持ち、オラたちの田んぼがあると・・きっと・そのうち、オラたちの後の代ではこの村の者、地元として受け入れられるだー}と関衛門。



関衛門は自分たちの家系の存続と、子孫が村人の偏見に苦しまずに暮らせるように大金をはたいて家とそのための土地、そして田んぼを買うことにしたのです。



マツは、話しを聞きながら、村人の偏見の根深さをますます感じていました。


{でも・・・誰が盗っていったんだべ・・・}と思いながらマツは、関衛門の言うことに耳を傾けます。

posted by junko at 17:14| Comment(0) | 武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年05月04日

第70話 引っ越し前の落胆

三月になり、下井村の大雪も少しずつ堅くなり始めてきました。

マツの妊娠と新しい家を引いて持ってくるという二つの嬉しいことで、関衛門とヨネの心は弾んでいました。

{今年は雪もいっぱい降ったから、堅雪になると家を引きやすいなー、曳家(ひきや)にとってやりやすいべー}と関衛門は、声を弾ませてヨネに語ります。

{んだなー(そうねー)今年の雪は、引っ越しには最高だずー!!そろそろ曳家(ひきや)に引っ越しのことで話しにいったらいいでねーべか?}とヨネ。

{んだなー(そうだね)オラが、話に行ってくるべからオメーは、マツの具合を見ててけろ、無理をして流れたりしたらいけねーからな!}と常にマツの身を気遣う関衛門です。


一方、ねたみにかられた村人たちは、関衛門が立派な家を買って引いてくることを不愉快に思っていました。

特に、村人の吾一、庄助 、小吉が中心になって関衛門の家に対して偏見をもち、よくないことを言いふらしていました。

その3人が会うと・・・

{そろそろ、関衛門は引っ越しでねーかー・・?}と吾一が話しを切り出します。

{んだ、よそ者がこの村で立派な家に住むなんて・・よそ者はボロ屋で静かに暮らしていけばええんだ!}と庄助。

{んだんだ(そうだそうだ)、でも、家を引いてくることは止められねーべー}と小吉が続きます・・



吾一は悪知恵の働く人で、少し間を置いてから・ややニヤリとし・・

{・・・関衛門が引っ越しする前に・・・あの立派な襖や障子、それに欄間・・・それをもらうべー}

{貰うって? オメー、何を言うてるだー・・? 関衛門が承知するわけねーべー!}
庄助が間を置かずに言うと、

{関衛門には黙ってもらうだー}と何食わぬ顔で応える吾一。


{黙って・・・?ほんならオメーは・・・盗むってことか・・?}と庄助が、やや驚いたように聞くと、

{いや、盗むわけではねー、代わりにオラの家の襖と障子をはめておくだー}と悪びれた様子も見せずに淡々と応える吾一。

{オメーの家の襖や障子は、かなり古いではねーか!関衛門にすぐに入れ替えたとばれるではねーか!}と庄助が少し戸惑いながら言うと、

{誰も見てねー時に、こっそり入れ替えたら、誰の仕業か分からねー、それに、関衛門はかなり金を持ってるべー、金があるなら、また新しい立派なものを買えるず!}と吾一は、金のある人からは勝手にもらっても構わないと言い張る態度。

{確かにそうだな・・・でも・・入れ替える・・それはやはり・・盗みになるんではねーかー・・・?そんなことしてええんだべか・・?}と庄助は少し後ろめたさがを感じ・・・


{よそ者に大きい顔されて、オメーそれでもええんかー?}と強い口調の吾一に、


{いや、そんなことは許せねー・・・ほんだったら、金のある人から少し恵んでもらったと思ったらええな!オラも何か貰うべ}と庄助は、吾一の考えにのります。


{そしたら、オメー障子のほうを自分の家のものと入れ替えたらええ!オラは、襖と欄間をもらうべー}と吾一。


二人の話を聞いていた小吉は、{オラの家の欄間は壊れていてみっともねー、オラに欄間をくれてけろ}と少し遠慮ぎみに言うと

{ほんだかー、あの欄間は立派なもんだず! オラも欲しいが・・オラの家のはまだ壊れてはねーからな、オメーが貰ってもええど、 ええか、誰にも見られんようにして入れ替えるようにしてけろな}と吾一。

{オラんとこの欄間は壊れてガタガタだから入れ替えることは難しいず、貰うだけでいいべー・・新しく買う金もねー・・・・関衛門は金があるから恵んでもらうべ、欄間が無いとなるとまた立派な欄間を買うべー}と盗みという罪を正当化する小吉。



そんな企てのことを何も知らず関衛門は、曳家(ひきや)と引っ越しのことを打ち合わせに行っていました。

引っ越しは、約2kmの移動になるので、約1カ月をかけて引いてくることになりました。


引っ越しの日が近づき、関衛門はヨネと一緒に新しい家を見てくることにします。

その二人が、家の中に入って見て回ると・・・

「愕然」とします・・・

{襖と障子が・・・・}との関衛門に、

{欄間がねぇー・・}とヨネの大きな声が・・・。



posted by junko at 16:43| Comment(0) | 武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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