「武造とマツの物語(新)」

【小説】 身体障害者に理解がない時代にマツは、幼少のとき親同士で決め

た「ろうあ者」との結婚のため養女にいく。偏見や逆境に遭いながらも前向きに生きていく。



2010年06月22日

第76話 お詫び

{武造は、小吉に「罰あたり」なことをしたらいけねー、神様はどんなことでもちゃんと見ているんだということを作り話の夢で訴えただー}と、マツは欄間を取り戻せたのは、武造が機転を利かせたからだと関衛門とヨネに話しました。

{でも、襖と障子は誰の仕業かを小吉は言わねかっただー}マツは残念そうに言います。


{せめて、欄間だけは取り返したかったから、その欄間が戻ってきて有難てーだ!!襖と障子のことは、もうえぇーだー}関衛門は、武造とマツが欄間を平和裏に取り返したことが嬉しそうでした。


それから、三日経った晩のこと、

小吉が晩の時間に、周りを気にしながら“こそっ”と尋ねてきたのです。

酒を小脇に抱えていました。

{関衛門、すまねかっただー・・・この酒はお詫びだ・・}と、小吉は土下座をしながら何度も額を畳に着けました。

{欄間をよー返してくれた!ありがとうな!!}と言い、関衛門は一言も小吉を責めるようなことを言いませんでした。


ヨネが温かいお茶と漬物を出し、{温まって、ゆっくりしていってけろ!}と優しく微笑んでいます。


ヨネも小吉が自分から欄間を盗んだことを白状し、そしてお詫びにきたことが嬉しかったのです。

すでに、関衛門の家族は、誰もが小吉のことを悪く思っていませんでした。


{小吉、オメーは正直な行動をしただー、もう、罰が当たることはねー、神様は、オメーのその真っすぐな心も見てくれてるだー}と関衛門は、小吉を安心させました。


囲炉裏の火が小吉の冷えていた体を温め、こわばっていた顔も和らげてくれました。

囲炉裏の火を見つめていた小吉は、緊張が取れて襖や障子に関しても話したくなります。

{実はオラ、襖と障子の事も知ってるだー}と吾一や庄助のことを話し始めました。

{教えてくれてありがとうな!けど、そのことはオメーから聞いたということは誰にも言わねーだ!安心してけろ!}関衛門は、小吉が後でその2人に責められるという不安を感じないようにさせます。

囲炉裏の火と温かいお茶で、すっかり温まった小吉は、すっきりした顔をしていました。

{漬物を少し、持って帰ってけろ!}とヨネが渡しました。


小吉の帰る時の顔は晴れ晴れとしていました。


関衛門は小吉の後ろ姿を見ながら、{人は、自分の気持ちに責められるようなことをしてはいけねー、心にやましいことがあれば、その顔にもなんとなく影が出るもんだ、けど、今の小吉の顔は晴れ晴れとさっぱりしているだー}と。


{襖と障子はどうするだかー?}とマツが尋ねると、{犯人が分かっただけでも良かっただー、けど、取り返すことはしねーだ。}と関衛門は、この事件はここで終わらせることにしました。

{マツ、もう三月になる、引っ越しの時期だ、オメーは腹ん中に赤ん坊がおるだー、重いものを持ったらいけねー、けっして、無理するでねーど。}と関衛門は、常にマツを気遣っていました。

(引っ越し・・・大きな家をここまで引いてくるって、どんなもんだろう・・?)とマツは初めての引っ越しに興味津津でした・・・。




ラベル:お詫び
posted by junko at 15:55| Comment(0) | 武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年06月15日

第75話 作り話の夢

顔色が悪いではねーか・・・気分でも悪いんだかー?}とマツは小吉にあえて優しく聞きます。

{何でもねー・・・大丈夫だー・・・}と言いながら小吉は呆然と武造の顔を見詰めました。

武造はそれ以上話そうとはせず、ぺこりと頭を下げてお茶のお礼をしました。

武造が夢の話しをそれ以上しないと分かったマツは、{お茶ごちそうさま、ほんじゃー帰るべー}と言って玄関先に出ました。


何も載せていないソリを引いて武造とマツは、小吉の家を後にしました。

しばらく歩いた時に、後ろで声がします。

{待ってけろ!}と小吉が二人の後を追ってきました。

{オラの家にまた来てけろ!渡してー物があるだー・・・}と言う小吉の顔には困惑の表情が浮かんでいました。

小吉は2人を家の中に招じ入れ、{すまねー・・・}と土下座しました。

{この欄間はオラがオメーたちの新しい家から盗んできたものだ・・・やっぱり・・神様の目はごまかせねー・・・持って帰ってけろ・・・}と言いながら小吉は何度も額を畳につけて謝りました。

小吉は、武造の夢の話しを聞いて、自分が「罰あたり」なことをしたということで神様を恐れたのです。

{正直に話してくれてありがとうな}とマツ。

武造が襖や障子に目をやっているのを見て、{ところで、新しい家の襖と障子が古いものと入れ替えられていたんだけど、誰がやったか知らねーか?}とマツは小吉に尋ねます。

小吉はますます困惑した表情を浮かべ・・・・{言えねーだ・・・}と力なくこたえました。

{ほんだかー・・・、まーえぇー・・}とマツ。


欄間をソリに載せて武造とマツは小吉の家を後にしました。

(立派な欄間だなー)とマツは、ソリに載っている欄間を見ながら歩きます。

二月末の気温はまだまだ寒く、家に向かう二人の息が白くなります。


武造が突然笑い出しました・・・。

{武造、どうしたんだかー?}とマツは武造の顔を見ました。

武造は立ち止り、腕を頭のところに持っていき横にした後、五本指を頭の上で「花が開くように」ぱっと開きました。

{夢がどうかしただかー?}とマツ。

・・・なんと、あの夢の話しは「作り話」だと言うのです。

武造は、小吉が神様を恐れ、自分から白状することを願ったのです。

小吉が盗みをしたことを神様は見てたということを、「作り話の夢」で訴えたのでした。

{そうだったんかー・・}事を荒立たせずに「作り話の夢」で小吉の心を動かし、欄間を取り戻せたことで武造を感心するマツでした。


(でも、襖と障子を盗んだ犯人は誰だべ・・・?)と気になるマツでした・・・。



posted by junko at 16:24| Comment(0) | 武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年06月04日

第74話 夢  

(マツなら武造をうまく手助けして欄間を取り返せることができるかもしれねー)と考えた関衛門は、

{マツ、くれぐれも小吉の気持ちを堅くさせんようにしてきてけろな!}と言って、少しの雪菜を持たせました。

(武造はソリを持っていくほどだから、絶対に欄間を取りかえすつもりだ・・もしかしたら・・・力づくで取りかえすつもりだべか・・・?)とマツは、ソリを引いてる武造の後ろ姿をみながら様々な場面を想像しました。


関衛門が帰ってから、それほど時間が経っていないのに武造とマツが来たことで小吉は、自分が疑われてることを感じながらも{よー、耳きんか(つんぼ)ではねーか、オラの家に何の用だ?}と努めて平然な顔をします。


(耳きんかと言うでねー、武造とちゃんと名前で呼んでけろ!)とマツは心の中でつぶやきます。

{これ、おすそ分けだ!}と言い、関衛門が持たせてくれた“雪菜”を差出します。

{おー、これはありがてー}と気分を良くした小吉は、{マツ、オメ―赤ん坊ができたんだってなー、うちには何もねーけど「お茶っこ」だけでも飲んでいってけろ!}とお茶を出します。


武造は、玄関に腰かけお茶をごちそうになりながら“ちらっ”と家の中に目をやります。


古くて黄色っぽく変色しボロボロの襖の上部には、立派な「欄間」がはめられていました。


落ち着かなくなった武造の雰囲気をマツは、敏感に感じ取ります。



武造は、身ぶりで小吉に話しかけ始めます。


その意味を理解できない小吉は{武造は何を言うてるだかー?}とマツに聞きます。


武造は、腕を頭のところに持っていき横にした後、五本指を頭の上で「花が開くように」ぱっと開きました。


{武造は、夢を見たと言うてるだー}とマツ。


武造の身ぶりは続きます。


{御輿(みこし)をみんなで担いで山に登っていった}と武造の夢を解説するマツ。

{ほー、それは縁起の良い夢ではねーか!武造もそれに加わってたんだかー?}と小吉。


小吉は、武造が今まで御輿を担ぐことに加わらせてもらえないことを知っててわざと嫌味を言ったのです。


(そんな嫌味を言うでねー)とマツは心の中で言いながら、武造の身ぶりを見て、その意味を理解しようと努めました。


武造の夢の話が続きます。



{みんなで「御輿」を担いで山に登って行ったんだけど頂上になかなかたどり着かない}といった夢のようだ!とマツは言います。


武造の身ぶりから御輿を担いで山に登った皆が、焦ってきていることが分かります・・・


{山の中をぐるぐると同じ場所をまわっていて、どうしても頂上にたどり着けない・・らしい・・}とマツ。


{ほー、それは変わった夢だなー}と興味深そうに言う小吉。


{雨も降ってきて、稲光がしてきた・・・・}


ますます身を乗りだしてマツの解説に耳を傾ける小吉。


{御輿を担いでいる皆はとても疲れてきた・・・・そして・・皆が不安そうな顔をしてきた・・・何故、頂上に着けないのか?と・・・。}


さらにマツは、武造の身ぶりを見ながら話しを続けます。



{これはただ事ではねー、この山は皆が慣れてる山だし、このように頂上にたどり着けないということは今まで一度もねー、これは神様が、御輿を担いできても喜ばないということではねーか・・と・・。}


武造は夢の話を続けます。


{御輿を担いでいた皆が、互いに言い合い始めた・・・・この中の誰かが、「罰あたり」なことをしたんではねーか・・?}とマツは神妙な顔で言います。


{罰あたり・・・}・・・小吉の表情が少し堅くなってきました。


{武造は、雨と稲光がする中で、皆が言い合っているところで目が覚めた}ということだー・・とマツ。


マツが話し終えたときには、小吉の顔が青くなっていました・・・。


その小吉を見ながらマツは淡々と言います。

{武造は変わった夢を見るもんだなー、誰かが「罰あたり」なことをしたんではねーか・・?という夢を見るなんてなー


{・・んだなー}と応える小吉の声は弱々しく、やや震えていました。




posted by junko at 12:11| Comment(0) | 武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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