「武造とマツの物語(新)」

【小説】 身体障害者に理解がない時代にマツは、幼少のとき親同士で決め

た「ろうあ者」との結婚のため養女にいく。偏見や逆境に遭いながらも前向きに生きていく。



2010年07月30日

第83話 竹を割ったような性格

(武造がまた何かを考えたんだべか・・?)

漬物を持って出かける武造にマツはついて行きました。

吾一の家に向かいます。

(今度も作った夢話をするんではねーべか・・?)などと考えるマツです・・


吾一の家から出てきたのは、吾介の嫁「たけ」でした。

「たけ」は、やや大柄で「竹を割ったような性格の人」でした。


武造は、持っていた漬物を「たけ」に渡します。

そして、頭を下げ・・手ぶり身ぶりで田んぼの上を通してほしいと頼みます。

武造の表情が物悲しげです・・・!


移動中の家で中途半端に住むのはわびしく、落ち着いて眠れないと言います・・・


武造の言ってることが、よく理解できない「たけ」は、「武造は何と言ってるんだかー?」とマツに注釈を求めました。


マツは、その武造の様子を見て、「武造は、人の田んぼの中で住む中途半端な生活では、夜眠れなくて辛いと言ってるだー」

「でもなー・・オラ、この家に嫁に来て長くはねーだー・・オラが決めることは出来ねーだ・・」と「たけ」は言います・・


それでも武造はあきらめず、何度も頭を下げます・・

その様子を見て、マツも頭を下げ「たけ」に田んぼの上を通らせてくれるように頼みます。


2人の様子をじっと見た「たけ」は、「分かったず!オラがおとうさんに話してみるだー」と言いました。

さっぱりと応える「たけ」は、どこかしら自信がありそうでした!



武造とマツが帰っていくところを帰宅途中の吾一が目にします。

「武造とマツが何しにうちに来ただかー?」

「漬物のおすそ分けを持ってきてくれただー、・・・おとうさん、村の人たちがしてる“ひそひそ話し”のことだけど・・」と「たけ」は話しを切り出します。

「何の“ひそひそ話し”だ?」と吾一。

「オラたちの家が武造たちの家を通さないことの“ひそひそ話し”だー」

「たけ」はさらに続けます。

「村の人たちは、関衛門たちはよそ者だけど、田んぼの上を通ることぐらいは、大したことではねー、吾一が2週間も通さないのは、同じ村人として恥ずかしいことだ!と話してるだー」と「たけ」は言います。

「なんだと・・?村の人がそんなことを言うてるだかー?」と驚く吾一。

「吾一は、よそ者として肩身の狭い思いをしている関衛門たちをいじめていると言うてるだー、吾一は意地が悪いと。」と[たけ]は、腹に力が入った声でハキハキと言います。

「オラが・意地が悪い・・?村の人たちがそんなことを・・・オメーは誰からそんなことを聞いたんだかー?」と少々戸惑いながら言う吾一。

「誰でもいいではねーか!とにかくオラは、そんな意地悪な人の家に嫁に来たと思われるのは嫌だず!」と言う「たけ」の声には力が入っています。


「そんなこと言われても・・・」と言う吾一に、

「ぐずぐずしてるんだったら、オラは今すぐに実家に帰るだー!」と「たけ」。


嫁が実家に逃げ帰ったと思われるのを恐れた吾一は、「分かったず!通してやるから、実家には帰らねーでけろ。」と「たけ」の気持ちをなだめます。


実は、「たけ」は義理のお父さんがしてることに、内心いら立っていました! 「たけ」が言ったことは自分の思っていたことだったのです。


また、実際に「たけ」と同様に感じている村人もいました。


このようにして、ようやく通行許可がでました。

(やっと目的地に着ける!)と思い、喜んだのもつかの間で、吾一が通行料として、多額のお金を要求してきたのです。

「オラの田んぼは、他の人の田んぼより大きいだ!距離がある分、それ相当のお金を払ってもらわねーといけねーな!」と吾一。

金の蓄えが無くなってきていた関衛門の家計が、窮地に追い込まれていたところに吾一の要求です。


やむなく、関衛門はすでに自分の家計は苦しく、要求されてるお金を払うことはできないことを話しました。


嫁や村の人に自分は意地悪な人だと思われたくない吾一は、少し情け深い表情をして、「仕方ねーな、だったら少しまけてあげるだー、金がないと言ってるオメーからむしり取るほどオラは根性悪くねーからな!」と吾一。

少し金額が下がったとしても他の人に払った金額よりは多いものでした。


吾一への通行料を払ったこの時点で、関衛門の家の蓄えは底をついてしまいました・・・


経済的に苦しい生活の始まりです・・・


外見は大きな立派な家で、いかにも金持ちのように見えますが、実際は、金がなく食べていくのに難儀をする生活が始まったのです・・・。


マツは武造に何故、「たけ」に話したのかを聞いて見ました。

武造は、何度も吾一の家に行ってるうちに、「たけ」が、申し訳なさそうに自分たちを見ていたとのことです。

ハキハキして「竹を割ったような性格」の「たけ」だったら、なんとか吾一を説得できるのではないかと思ったのだそうです。


家の引っ越しは、約一カ月と少しかかりました。


関衛門の子孫への思い(よそ者ではなく、この村の人として村人に受け入れられるため)で購入した家、そして、田んぼで生活がはじまります。


関衛門の家が所有する田んぼで、初めて米を作ることが始まります。

経済面をゆとりあるものにするため、米作りに意欲を燃やしました!


ところが・・・・状況は順調にはいきませんでした・・・・


マツも養女としてきて、初めて経験する試練に直面します・・・・・




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2010年07月29日

第82話 手ごわい反対者!

(あと少しで家は目的地に着くど!)

マツは、新しい家での生活を期待する一方で、吾一の田んぼを通らなければならないことへの不安が思いをよぎりました。

新しい家は、目的地まで約200mのところまで来ています。


「オラの田んぼの上を通るな!」

心配していたとおりに、吾一が断固として通さなかったのです。


「すまねーな・・オメーの田んぼをどうしても通らないと目的地までいけねーだ・・」と関衛門は、吾一に酒とお金を渡そうとしました。

ところが、

「オラは、そんなものでは通さねー」と吾一は受け取りません。

(やっぱり・・・吾一は簡単には通してくれねーな・・)マツの心配が的中します。


曳き家の棟梁は、「人の田んぼのことだから、このことにはオラは口出しできねー・・」と事態を心配そうにみています。


次の日、その次の日・・何度も、関衛門とヨネは、吾一に頭を下げ、通してくれるようお願いします・・。


「頭を下げったって通さねーものは通さねー、よそ者がオラの田んぼの上を通ることは出来ねーだ。」と吾一は偏見をあらわにします。

武造も、関衛門の後をついて行き、田んぼの上を通してもらえるよう吾一の家にいきました。

「何度来ても通さねーど!」と吾一。

その吾一の脇で奥さんの「つる」と息子の吾介、その妻「たけ」が黙って聞いていました。

武造は、“ちらっちらっ”とその人たちを見ながら、その場の重々しい雰囲気を感じます・・。


その日も通行許可が得られず、がっかりする関衛門。


新しい家は、吾一の田んぼの前で止まっていました。


「このままだと何時になったら通れるか分からねー・・・」と力なく話す関衛門。

「家はすぐそばまで来ているではねーか!・・田んぼの中にこのまま置いていたら心配だず・・また夜のうちに誰かに家の中をいたずらされたりしたら・・・」と心配するヨネ。

「そしたら、住んだらえぇー!」と関衛門。


まだ目的地に来てない新しい家に住むことにしたのです。


今までの間借りで住んでいた家から、必要最小限の物を運びます。


その様子をふんぞり返って見ている吾一。


ふんぞり返る吾一の姿を見て武造は、“あっちうろうろこっちうろうろ”し始め、何かを考えているようです。


(武造がまた何かを考えているよーだ・・)とマツは思います。


田んぼの中にある新しい家に住みながらも、毎日、関衛門とヨネは吾一の家に行きます。

そのたびに、武造もついていきました。


吾一は、なかなか通しません。


そして、2週間がたちました。


武造は、マツに自分についてくるように手ぶり身ぶりで言います。

(どこに行くんだべ・・?)


posted by junko at 14:32| Comment(0) | 武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月24日

第81話 通行料?

(武造のオラを見る目に裏はねぇー、武造はオラと一緒におれることを喜んでるだー)

マツは、武造の純真な目を見るたびに、自尊心が少しずつ回復していきます。


あたり一面銀世界で、堅雪になっている上を大きな家が慎重に移動していきます。

道と田んぼの境が分からないほどの平坦で、家は目的地に向けて田んぼの上も通っていきます。

引っ越しも順調に進んでいると思っていた頃に、思わぬ状況に直面しました。


「オラの田んぼの上を通るな!」

村人が自分の田んぼの上を通ることを拒否したのです。

その村人は、関衛門が家を引いてくるのを快く思わず、(よそ者のくせに生意気だ!)と思っていました。

関衛門は、自分に対しての強い偏見を感じながらも、自分を制し・・穏やかに接します。

「すまねー、オメーの田んぼの上を通らねーと進まねーだー、通してくれねーか・・」と関衛門は、田んぼの持ち主に願い出ます。

「ダメだ!通さねー!」と断固拒む村人。


どうしても通してくれないと分かった関衛門は、酒を持って行きました。

「この酒はオメーの田んぼの上を通してもらうお礼だ、受け取ってけろ!」


ところが、村人は「こんなものでオラの田んぼの上を通るつもりだかー・?持って帰ってけろ!」と拒否。


関衛門は、ヨネと話し合いお金を渡すことにしました。

これは、予定外の出費になりました。


「どうか・・酒と・・この金を受け取ってけろ、これでオメーの田んぼの上を通してもらえねーか・・?」


関衛門が渡したお金を見て、村人は「そうだなー・・これはオラの田んぼの上を通る通行料ってことだな、それなら通ってえぇーど。」

ようやく通行許可がとれて、その田んぼの上を通ることが出来ました。


家が移動する距離は、目的地まで約2kmです。

それまでに何人もの人たちの田んぼの上を通らなければなりません。


「このことが村の噂になって・・田んぼの持ち主が皆、通行料だと言って酒とお金を要求してくるんではねーべか・・?」マツは心配しました・・。

「心配しなくてもえぇー、これまでの人たちは通してくれただー、確かにオラたちはこの村ではよそ者として見られてるけど、村人皆が同じようにオラたちに敵対しているわけではねー」と関衛門。

マツは、力を込めて家を引く仕事をしている男の人たちや、結婚式のときに自分を慰めてくれたお年寄りたちのことを思い浮かべます。

(皆が、通行料を要求することはねぇー・・)

「この村の人たちを十把一絡げに見ないようにしないといけねーな。」と関衛門。


それからも家は毎日、順調に移動していき・・・

関衛門が言ったように、田んぼの持ち主の皆が通行料を要求することはありませんでした。

中には、「引っ越しはたいへんだ!がんばれよ!」と言って励ましてくれたり、漬物をくれたりする人もいました。

(親切な人たちだなー)とマツはうれしくなりました。


ところが、

田んぼの持ち主の数人は、通行料を要求してきました。

「オラの田んぼの上を通るな!」

そのたびに、酒とお金を渡して通してもらいました。


「この通行料は、引っ越しのための計算に入れてなかっただー・・・これからの生活費だったもんだ・・あと・・・これから吾一の田んぼがある・・通してもらえるべか・・・」とヨネは不安になります。


この時点で、関衛門の家の経済状況は、非常に厳しくなってきました。


(吾一の田んぼが・・・簡単には通してもらえねーかもしれねー・・)マツは心配になります・・・。


posted by junko at 16:23| Comment(0) | 武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月21日

第80話 純真な目

(オラの人生って・・・)結婚式の辛い思い出がマツの心をくもらせ・・

(やり直しがきかない過去の出来事・・・その記憶が消えてしまえばどんなに楽だろう・・・)


(幸せいっぱいの結婚式・・幸せいっぱいの花嫁・・・オラ・・そうなりたかった・・・)


マツは皆と働いている武造を見ました・・


棟梁(とうりょう)の声にあわせて、皆と武造が家を引いています・

一糸乱れず皆と動作を合わせて作業している武造の顔ははつらつとしていました。

耳が聞こえなくても皆と同じように仕事ができる武造!

そして、仕事を喜んでしている武造!


(オラは・・武造を嫌いではねぇー・・)


「よーし!ここらで一服するどー!」棟梁の声で少しの休憩時間になります。


武造が、皆と一緒に仕事ができる喜びを感じながらマツのもとに来ました。

もやもやとした気持ちのマツの目に武造のはつらつとした顔、純真な目が映りました。


武造がマツを見る目はキラキラしていて幸せそうでした!


(武造は、オラを嫌ってはいねぇー・・武造はオラのことを好いてるだー)


マツは、武造の純真な目から自分に対する気持ちを読み取れました。


マツの心のくもりが少しずつ晴れてきました!!


(終わったことを何時までもくよくよしててはいけねぇー、武造はオラが嫌いで山に逃げたんではねぇー・・・)


幾分、積極的に自分の考えを調整したマツは、心が明るくなったことに気付きました。


家を引く作業は順調に進んでいました。

ところが、途中から厄介な問題が出てきました・・・



posted by junko at 15:28| Comment(0) | 武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年07月14日

第79話 結婚式の辛い思い出がまた・・・

「すごい!・・・家がまるごと動くなんて・・」

マツは慎重に引っぱられて枕木の上を移動していく家に、目が釘付けになります。

武造がそわそわしてしてきました。

(武造も家を引っぱることに加わりたいんではねーべか・?)とマツは武造の表情から胸の内を察します。

「よ〜し、まずはここまでだ!!」と棟梁(とうりょう)のドスの利いた声で引っぱる作業を止めます。

家を引っぱり移動させていく作業は、慎重に慎重に進められていきます。


武造が、関衛門に「自分も加勢したい!」といいます。


武造の感の良さを知ってる関衛門は、棟梁に「武造は、耳が聞こえねーけど、感はいいだー、加わらせてけろ」と言います。

「おー、いいどー!」と快く受け入れる棟梁。



喜び勇んで加わる武造。


棟梁(とうりょう)の指図で、家はゆっくりと枕木の上を順調に移動していきます。


武造の仕事ぶりを見た棟梁は驚きました!!

(武造は、本当に耳が聞こえねーんだろうか?オラの声に合わせて、皆と一斉に動いてるだー・・?まるで・オラの声が聞こえてるよーだ・・)と棟梁は思いました。

「関衛門、武造は本当に耳が聞こえねーんだか!?少しは聞こえてるんではねーか?」と武造の感の良さが信じられないようです!。


「武造は、全く聞こえねーだ!」と関衛門。

驚き、すっかり感心した棟梁は、「武造!オメーは大した者だ!」と武造の肩をポンポンとたたきました。

棟梁に褒められて嬉しそうな武造。


村の男の人が「そういえば、以前に軍事教練のことで武造のことが新聞に載ったことがあったなー、武造が皆と一糸乱れずに動いたと褒めておったなー」と以前のことを思い出します。

「あー、そうだった!そうだった!」と加勢していた村の人たちが、口をそろえて言いました。


(軍事教練・・・新聞に載った・・・)家がまるごと移動する様子に感動していたマツの心が・・急に・・くもってきました・・

(あの軍事教練に武造が行かなければ・・・新聞に載らなければ・・・埼玉の女の人からの手紙も来なかったのに・・・・)・・・

マツの目は大きな家を見ていても、その映像が何も脳に映っていないかのようです・・

頭の中は、結婚式の辛い思い出がいっぱいよみがえってきました・・・・

(武造は・・あの手紙を離そうとしなかった・・結婚式のとき・・山に逃げた・・・武造がなぜ・・?)

(花婿代理で三三九度をした場面・・・武造が山から連れ戻されてきた場面・・・そして・・惨めな気持ちになっている自分を村人たちが見ているところ)

ちょっとした会話などをきっかけに、結婚式の辛い思い出が、容赦なく呼び起こされました・・。



posted by junko at 11:08| Comment(0) | 武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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