「武造とマツの物語(新)」

【小説】 身体障害者に理解がない時代にマツは、幼少のとき親同士で決め

た「ろうあ者」との結婚のため養女にいく。偏見や逆境に遭いながらも前向きに生きていく。



2010年08月27日

第88話 心の怪我

「んだ(そうだ)・・結婚式は始まりに過ぎねー、と言っても・・誰だって幸せな結婚式を挙げたいと思うものだ、けど、オメーはそう出来ねかった・・・結婚という新しい人生の一歩を踏み出すときにつまづき、心に怪我を負ってしまった・・」

マツはうつむいたまま黙って聞いていました。

「けど、怪我は治らないわけではねー、時間はかかるが必ず治るだー、愛情が治してくれるだー」

マツは、武造の自分を見る純真な目、そして、自分を気遣う行動を思い浮かべます・・

(お父(とう)が言う通りだー、武造の目・・自分に対する行動で、オラ、確かに気持ちが軽くなっていっただー・・)

「オメーは、人を憎むことをしねー、そして人の幸せを喜ぶ人だ!  オメーは、自分に怪我をさせた武造を憎まねーし、きつくあたることもしねー」

そう言う関衛門の言葉に、下駄屋の女将も同じことを言ったことを思い出しました。

関衛門は、さらに続けました。
「愛情というものは、培っていくもんだー、最初から、完成された愛情はねーだー、だから、結婚式がすべてではねー、結婚式の後からが大事なことだー」」

マツは、下駄屋の女将が嫁に関して言ってたことを思い浮かべます・・

(下駄屋の家は、仲が悪そーだったなー・・・女将は、悩んでたったなー・・・)

マツは、関衛門が言ってることを理解しました。

「オラ、武造を嫌いではねーし、武造が不幸になることも望んではいねーだー」

そのマツの言葉に関衛門は微笑み、
「武造は、オメーに悪いことをしてしまったが、結婚をする前より、今の方がずっとオメーのことを好いてるだー、オメーたちは、結婚の始まりは悪かったが、夫婦で愛情を培っていって幸せになったらえぇー」

(結婚式よりその後の方が大事・・・)

マツは、この関衛門との会話で、結婚式のことが少し小さな問題に見えてきたように感じます。

(心の怪我が、少し癒えたんだべか・・・?)

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2010年08月26日

第87話 結婚式は「始まり」

「どうしたんだかー?」
関衛門は尋ねました。

マツは言葉に詰まって何も言えません・・

「オメーの心に何か辛いことがあるから涙が出てくるんではねーか・・?」

「オラ、自分でもよく分からねーだ、オラ、武造を嫌いではねー・・・でも・・」

関衛門は、そのマツの言葉ですぐに察しがつきます。
「マツ、オメーがそのように涙する気持ちは自然なものだ、泣きたいときは思いっきり泣いたらえぇー、我慢してると体に良くねー」

その関衛門の言葉にマツは、安心したのかますます涙が出てきました。


「オメーはまだ、結婚式の事が心の内で処理出来てるわけではねーんだ・・」そう言って関衛門は間を置きます。

関衛門は、ゆっくり話しを続けます
「オメーたちの結婚式のことでは、オメーに辛い思いをさせて悪かっただー、ほんとに、すまねかっただー」

関衛門が自分の胸の内を理解してくれてることを感じたマツは、少し気持ちが軽くなったように思います。

関衛門が、穏やかに話しを続けます
「オラ、結婚式の日取りをもう少し先に延ばしたらよかったと悔んだだー、武造もオメーを好いてたから、まさか、あのような事をするとは思わなかった・・武造は、あの時・・あの手紙に思いがくらまされていたんだなー・・・」

そして、関衛門は深く息をつき、それから話を続けます
「結婚式は、結婚のすべてではねー、「始まり」だ・・、オメーはその始まりで大きくつまずいてしまった・・・そのつまずきで心に怪我を負ってしまってるんだ、でも、治せる!結婚式は「始まり」に過ぎねーからな。」

(結婚式は「始まり」に過ぎない・・?)




posted by junko at 11:27| Comment(0) | 武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月20日

第86話 平和を生み出す性質

「マツ、誰もがオメーのような心を持っているわけではねー、オメーは辛抱強く気立てが良い」と女将はマツを褒めます。

マツは、何かを煩っていそうな女将が、自分のことを褒めるのが気になり聞いてみました。

「何かあったんですか?」

「オラの息子の嫁が今、実家に帰ってるだー・・嫁は短気で、嫌なことがあったらすぐに怒って実家に帰ってしまうだー・・・・」

女将は、嫁のことで思い悩んでいたのです。

女将は、マツをじっと見て話しを続けました。

「マツ、オメーと武造の結婚式のことを言うと、オメーが辛くなるかもしれねーが、オラ、あの時オメーが気の毒でならなかった・・・正直なところ、オメーたちが、あのような結婚式の後、うまくやっていけるとは思わなかっただ・・」


マツは、黙って聞いていました。


「オメーはあの後、じっと辛抱していただー、武造ともうまくやっている、それは、そう簡単に出来るもんではねー、オメーの人を憎まない、そして、人の良い点を見ようとする性質が平和を生み出すんだ!」

さらに、女将は話しを続けました

「最近、武造を見かけたが、幸せそうだった、オメーが結婚式のことで、武造にきつくあたっていないからだー、オラ、ほんとに、オメーを嫁に欲しかったず・・」

女将の真剣な表情には、日頃、嫁との不仲の苦労が表れていました。

「その、山菜もらうべー」

女将は、籠に残っていたワラビとゼンマイをみな、買ってくれました。


マツは、女将に褒められたことが嬉しい反面、複雑な気持ちがしました。


(オラ、完全に武造を許しているんだろうか・・?)


自分の気持ちがはっきり分からず・・・


でも、武造が純真な目で自分を見るときマツは感じました。

(武造は、オラを好いてるだー)

その武造の純真な目を見て、マツは自尊心を取り戻していったのです。


確かに、マツを見る武造は幸せそうでした。


しかし、自尊心を取り戻していっては、また・・・結婚式のことで辛い思いを感じるマツです。

家に戻ったマツは、腰をおろし下駄屋の女将との話しを思い返していました。

時々、「はぁー」とため息をついてるマツに関衛門が気づきます。

そのマツの後ろ姿が、いつもと違うように感じた関衛門は、「マツ、行商で何かあったんだかー?」と聞きました。


マツが黙っていると・・

「誰かに何かを言われたんだか?元気がねーではないか・・」と関衛門が言います。


「下駄屋の女将に会っただー・・オラのこと、褒めてくれただー・・・でも、オラ・・・」と言い、マツは言葉に詰まり・・目に涙があふれてきました・・・


posted by junko at 16:37| Comment(0) | 武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月11日

第85話 鉄釜に焦げついたご飯

(もっとご飯、食いてーー)

ご飯のおかわりが出来ず、味噌汁と漬物だけでは満たされないマツは、養女に来て初めて「真っ白いご飯を腹いっぱい食べれない」ひもじさを感じました。


(米の収穫までの辛抱だ・・・)


それでも、今までご飯を腹いっぱい食べてたお腹は、すぐには順応しません。

釜の中を見てもおかわりの分のご飯はありません・・


武造、そして関衛門とヨネも、ただ黙って一杯限りのご飯、味噌汁と漬物を食べていました。


それぞれが、家の引っ越しをする前までは、予想していなかったことです。


割り切りが早い武造は、味噌汁を美味しそうに飲んでいます。


(オラ、ご飯が食いてー・・)

マツは、自然と釜に目が向きます・・


(あっ!♪ ご飯がある!!)


マツは、鉄釜の中にまだ食べれるご飯があることに気付きました!


薪で炊いた鉄釜のご飯は、しゃもじでは取れないほどに鉄釜に焦げついたのがあります。


釜の中に水を入れて、釜の内側に焦げ付いて堅くなっているご飯を柔らかくします。

ご飯粒の形が全くない、くっ付いて“ぺったんこ”になったご飯を取り、そのようにして洗い場で食べました。

(ふっくらご飯ではねーけど、この焦げ付いた部分もこのように食べるのも、けっこう旨いもんだ!♪)


今まで、ふっくらご飯を腹いっぱい食べて、釜の内側にこびりついたものには見向きもしなかったマツは、それ以来、鉄釜を洗うことが楽しみになりました。


(今度は、どんくらいくっ付いてるべか・・?)と

毎回のご飯の後、釜を洗うときそう思うマツでした・・・



「ワラビとゼンマイを売ってきてけろ」とヨネが言います。

ヨネは、毎日のように山に行き、山菜を採ってきていました。


マツは、その山菜を籠に入れて、いつものように行商に出かけます。

山菜は、よく売れました!


売れて気分良くなっていたマツは、最後に下駄屋に入りました。

「ワラビとゼンマイだ!近所の人たちも、この山菜を食べれることが嬉しいと言って買ってくれただー!残り少なくなっているだー、買ってくんねーか?」


下駄屋の女将は、マツを見て微笑み「オメーは、えらいなー、オラ、オメーの事を感心してただー」と言います。

「オラのことが・・?」

「んだ、ほんとにオメーをオラの息子の嫁に欲しかったず・・」と言う女将は、何か煩っていそうな顔をしていました・・

[この下駄屋は、以前マツに嫁に来ないか?と誘った事がある家でした]


(どうしたんだべ・・・?)



posted by junko at 15:43| Comment(0) | 武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月06日

第84話 新たな試練

(大きくて広い家だけど、柱磨きするところが多くなったず・・・)

「くるみ油」での柱磨きもマツの仕事でした。

(柱磨き・・単調で退屈だ・・・)と思いながらも、磨いた部分に“つやつや”と光沢がでてキレイになると満足感がありました。

(この家は、オラたちの家だ!!生まれてくる子もこの家で育つんだ!
オラが磨いたこの柱で、どんくらい背が伸びたか測るかもしれんなー♪)

そんなことを想像しながら柱を磨くと、この仕事も苦に感じなくなるマツでした。


そして、生まれてくる子のために、家を大事にする意識が出てきました。

単調で面白みのない柱磨きも、自分の見方を変えただけでやる気が出てくるマツです。


(腹減ってきたなー・・)

そのころには、マツのつわりもおさまっていて食欲が出ていました。


一方、武造たちは、米作りの準備を始めています。

自分たちの家所有の田んぼでの米作りです!仕事に取り組むにも力が湧いてきます!!

一生懸命に働いて、お腹ぺこぺこです!

「ご飯の時間だ」とヨネの呼びかけに皆が食卓につきます。

「皆、腹減ったべー、味噌汁おかわりして食べてけろ、でも、ご飯は節約しないといけねー、おかわりなしだー」とヨネ。

(おかわり出来ねーんだか・・・・?)ご飯が大好きなマツにとって、これは一つの試練になりました。

「引っ越しで予定していたより、金がかかってしまったんだ・・・だけど、米の収穫までは節約したらなんとか大丈夫だー」とヨネ。


(真っ白い、てんこ盛りのご飯が腹いっぱいに食べれる!♪)と聞いて、・・・それだけが魅力で養女に来たマツ・・・

養女に来てから、ご飯が食べれなくてひもじい思いをしたことは、一度もなかったマツ・・


そのマツが、ご飯を腹いっぱい食べることが出来ないという試練に直面しました・・・。


(ご飯、腹いっぱい食いてーー)

マツの試練はさらに続きます・・・。






ラベル: 柱磨き 試練
posted by junko at 13:48| Comment(0) | 武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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