「武造とマツの物語(新)」

【小説】 身体障害者に理解がない時代にマツは、幼少のとき親同士で決め

た「ろうあ者」との結婚のため養女にいく。偏見や逆境に遭いながらも前向きに生きていく。



2010年10月30日

漢字は絵? 第34回

武造とマツは、家の庭で絵を描いたりして遊んだ!

木の細い枝を使って、地面に絵を描いた。

イメージ力が強かった武造は、絵を上手に描いた。

カエル、猫、馬、ネズミなど生き物の絵を描くのが好きだった。


マツは、学校で学んだ文字を地面に書いて武造に見せた

「あ い う え お」とひらがなを書いた。

武造は、その文字「ひらがな」を見ても分かっていないように思えた・・

(武造は、ひらがなを勉強しても分からないんだべか・・?)

マツはさらに、「か き く け こ」と書いた・・

武造は、その文字にも分からないような顔をした・・・


それからマツは、覚えたての漢字を地面に書いた

「目 足 上 下」と書いていった。

それを見た武造は、自分もマツと同じように「目 足 上 下」と書いた

そして、「目」の字を指差した後、自分の目を指差した。

「足」の字を指差した後、自分の足を指差した。

「上」、武造は手を上に向け、「下」、手を下に向けた。

武造は、漢字を理解していた。武造は、さらに地面に書いていった

「耳 手 口 田」と書き、さらには「人間 晴天 雨雲」と書いた。

マツがまだ習っていない漢字も書いた。

そして、武造はそれぞれの意味を手ぶり身ぶりでマツに言ったのである。

マツは思った
(武造は、ひらがなを分からないのに何で、漢字が分かるんだべ?)

マツはそのことが、とても不思議だった・・。

マツは、関衛門に聞いてみた
「お父、武造は漢字を知ってるけど、何でひらがなが書けないんだべ?」

関衛門は言った
「ひらがなは、耳が聞こえない人には分かりにくいのかもしれねー、けど、漢字には、意味があるから絵として分かるのかもしれねーなー」

マツは言った
「漢字が絵?」

関衛門は言った
「んだ、漢字はその意味しているものに似せて作られているものが多いべー、たとえば、口はどうだ?」

マツはなるほど!というような顔をして言った
「穴が一つあいている!♪ だから、武造は、漢字を絵のように見るから分かるんだ!♪」

実際に、武造はひらがなは分からなかったが、漢字はよく理解した。

漢字を絵(イメージ)として見たので、その意味を理解できたようだった。


マツは学校が大好きだった、勉強で分からないこともあったが勉強をおもしろいと思った。

その学校がしばらく休みになった・・・

それは、田植えである。

ヨネがマツに言った
「マツ、田植えのときは学校は休みだからな!田植えを手伝うんだぞ!」

(学校・・休みかー・・・)
posted by junko at 16:18| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年10月29日

上長井の方言 第33回

関衛門の話を聞いて、人を偏ってみたらいけないと理解したマツは、武造が耳が聞こえないだけでなく、話も出来ないことをあまり気にしなくなった。

登下校を一緒にし、家では共に遊び、2人は本当の兄弟のように仲良くなっていった。

マツは、学校の勉強もおもしろかった。特に国語が好きになった。

国語の本には、普段、自分が使っている言葉ではなく標準語が書かれていることにも興味を持った。

(わたし・・・これは、「オラ」のことだ♪)

マツが生活していた上長井村では、自分のことを男も女も皆、「オラ」と言う。

(君・・・これは、「オメー」のことだ♪)

上長井村では、やはり男も女も皆、相手のことを「オメー」と言った。

(かわいそうだ・・・これは、「もごさい」のことだ♪)

(おこられる・・・これは、「ごしゃかれる」のことだ♪)


生き物の標準語での呼び方もおもしろかった。

(かえる・・・これは、「びっき」のことだ♪)

(うし・・・これは、「べこ」のことだ♪)

マツは、勉強を楽しんでいた。

学び、覚えたことをいつも一緒にいる武造に話したかった・・

しかし、耳が聞こえない武造とは勉強の話しはできなかった。

武造は、声を出せても言葉にはなっていない。

マツは、思った
(武造は、学校の勉強を分かっているんだべか・・?)
ラベル:上長井 方言 オレ
posted by junko at 15:45| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年10月28日

正しい事 第32回

吾一は、顔を斜め上に向け、関衛門とヨネを見た。

それから、武造を見て言った
「この赤ん坊はどういうことだ?」

ヨネの父・鉄太郎が言った
「武造は皆と変わらない赤ん坊だ!」

吾一は言った
「では、音に反応しないのは何故だ?」

鉄太郎が困った顔をした・・

ヨネが言った
「吾一、オメーの気にしてるとおりだ、武造は耳が聞こえねー、けど、武造は、産まれたときは五体満足に産まれたんだ!訳があって今は聞こえねー」

(ヨネは、関衛門の親族がしたことだと言わなかった)

吾一は言った
「武造はまだほんの赤子ではねーか・・耳は聞こえるようになるのか?」

ヨネは言った
「医者は聞こえるようにはならないと言ったんだ・・・」

皆しばし沈黙した・・・

関衛門が言った
「武造は、耳が聞こえねーけどオラたちと変わらない人間だ!この村のためにも頑張ってくれる大人に成長するんだ!」

それに対して吾一が言った
「オラたちと変わらない?オメーは何を言ってるんだ、身体障害者とオラたちが何も変わらねーといってるんだかー?」

それから吾一は、眉間にしわを寄せて言った
「オメーたちは、よそからこの村に入ってきて、しかも子どもは身体障害者だ・・・おまけに身体障害者をどうどうと皆に見せている・・・罰があたるぞ!」

それを聞いてヨネが言った
「なんてひでーことを言うんだ!皆も武造をあやして可愛いと言って喜んでたでねーか!罰があたるなんて言い過ぎだず!」

それからヨネは村の人たちを見まわして言った
「オメーたちも武造が他の赤ん坊となんら変わらねーと思ったベー?」

村人たちは黙った・・・武造をあやしていた先ほどまでの明るい表情は誰ひとりしていなかった・・・・

それから村人たちは皆、関衛門とヨネ、そしてヨネの親族までも疑り深そうな目で見た・・。

その後、村人たちは武造を抱こうとはしなかった・・・

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「そして、それから先も村の人たちはオラたちに対しては冷ややかだ・・・武造のことを耳きんかと言って偏った見方をするのはずっと変わらねー、けど、マツ、オラたちは正しい事をしてると確信しているんだ」

関衛門は自分の話しをずっと聞いているマツに続けて言った
「それは、身体障害者を家の奥の間に隠すのは間違ったことだということだ!オラたちは、武造を隠さなかった、皆と違うことをすることが必ずしも間違いではねー、それが正しいことだってあるんだ!」

マツがこたえて言った
「武造は耳が聞こえねーけど、オラと遊んでくれるからおもしろいず、だから、家の奥の間に隠すなんてもごさい(かわいそうだ)、そんなことをしたらいけねー!」

マツの物分かりの良さに関衛門は微笑んだ。

関衛門の長い話しが何時終わるのかと、しびれを切らしていた武造は、話が終わったのを悟り喜んだ!

そして、すぐに遊ぶためにマツの手を取った・・。
posted by junko at 21:26| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年10月27日

可愛い赤ん坊 第31回

関衛門の家族は、上長井村のヨネの兄・豊三郎(妻はハル)の近くに引っ越した。

(この時、ハルはマツを身ごもっていた)

引っ越しには、ヨネの親兄弟たちが手伝いに来ていた。

ヨネたちが上長井に来たということで、すぐに、村の人たちが様子をうかがいにきた。

あいさつを交わした後、すぐに目がいくのは赤ん坊である・・・

「ヨネ、赤ん坊は何て名前だ?」

ヨネは言った
「武造だ」

村の人は、「男ん子か、どれどれ!」と言いながら、赤ん坊の武造を抱こうとする・・・

ヨネの母親・テイが慌てて自分で武造を抱き寄せた。

テイは言った
「武造は今、寝ようとするところだ、またにしてけろ。」

テイは、武造が耳が聞こえないことを知られるのを恐れたのである。

ところが、武造は目を“ぱっちり”と開いた・・

そして、周りを“きょろきょろ”と見始めたのである・・・

村の人たちは言った
「武造は、目が覚めたようだなー、黒くかわいい目をしてるでねーか!どれ!オラに抱かせてけろ!」

「武造はこれから大きくなってこの村を活気づけるために頑張ってくれるべー、村の大事な子どもだ!抱かせてけろ!」

テイは困った顔をした・・

ヨネの親族は皆、不安そうにしていた・・・


関衛門とヨネは互いを見合わせ、そしてうなずいた。

ヨネが武造を村の人に抱かせた。

村人は言った
「武造、まっすぐオラの目を見てかわいいなー」

そして、村の人たちは、それぞれが武造を抱き、顔をゆがめていろんな表情をすると、武造は“きゃっきゃっ”と笑い喜んだ!

村人たちも自分たちがあやす武造の反応の良さを喜んだ!

「なんて可愛い赤ん坊だ!」

皆が武造の可愛らしさに気持ちが和んだ!!


ところが、1人の村人が武造が少し変わっていることに気付いた・・・

その村人の名前は吾一といった

吾一は、武造の耳元で、“ぱちっ”と指をならしてみた・・。

それから、武造の耳元で手を“パンパン”と叩いてみた・・・。

どれに対しても、武造は反応しなかった・・・

吾一は言った
「武造は・・・目に見えるものにしか反応しねー・・・オラが指をならしても、耳元で手を叩いても反応しねー・・・まるで、耳が聞こえねー者のようだ・・」

村人たちは言った
「そんなことねーべー」

吾一は言った
「オラもまさか・・と思うが・・」と言いながら、また武造の耳元で手を“パンパン”と叩いた・・

武造は反応しなかった・・・

「・・・・・」シーンとなった・・・

posted by junko at 15:54| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年10月26日

賠償金? 第30回

「ヨネの家族がこの村(上長井村)に引っ越してくるそうだ」

「らしいな、ヨネの旦那は、職業軍人ではなかったべか・?」

「んだ、だからヨネたちは、オラたちよりもずっと金を持ってるらしいぞ!」

「赤ん坊がいるそうだ!」

「豊三郎(ヨネの兄)の家の近くの空家に住むんだってなー」


上長井村では、ヨネたちの引っ越しのことがすぐにうわさとなり広まっていた。
しかし、武造の耳のことはまだ知られていなかった。

ヨネの親兄弟は、武造が身体障害者だと言えなかった・・・。

やはり、村人たちの目を恐れた・・・


一方、関衛門は、間借りしていた宮蔵とツネの家から引っ越す際、どのようにしたらよいかを考えていた。

親兄弟たちからは、

「ツネたちに、武造の耳をつぶした償いは必ずさせろ!多額の賠償金を払わせろ、このまま黙って身をひくことはするな」とか、「ツネを一発、殴ってから引っ越せ!」

などと言っていたからである。

基本的に平和な性質だった関衛門は、賠償金は要求しないことにした。

なぜなら、宮蔵とツネの生活は経済的に楽ではなく、賠償金を要求すると、宮蔵たちの生活が窮地に陥ると思ったからである。

もちろん殴ることもしなかった・・・

殴ったところで武造の耳は元に戻らないし、何も良いものを生み出さないと思ったからである。

関衛門は、自分の親族の間でもめるのを望まず、

静かに身を引くことに決めた・・・。


荷物をまとめて引っ越しの日、関衛門の父・定衛門と母・リンは、やはり心配した。

「ほんとに武造を隠さないで上長井に住むのか・・?あの村だって身体障害者には理解がないぞ!」

関衛門は言った
「武造は、オラたちと変わらない1人の人間だ!」

posted by junko at 16:14| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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