「武造とマツの物語(新)」

【小説】 身体障害者に理解がない時代にマツは、幼少のとき親同士で決め

た「ろうあ者」との結婚のため養女にいく。偏見や逆境に遭いながらも前向きに生きていく。



2010年11月30日

1人で行商に!第48回

(腹も減ったし・・くたくただず・・・)

初めての行商をやり終えたマツは、ひどく疲れた・・・

朝から野菜の収穫をして、それから籠いっぱいの野菜を売って来たのである。

しかも、行商してる時は、ずっと緊張しっぱなしだった・・くたくたになった・・・


家に帰ってからもヨネは、すぐに晩御飯の準備に取り掛かる。

武造は学校から帰ってきていた・・

マツがヨネと一緒に行商に行ったことが分かったようである・・けど、武造はこの日だけのことだと思った、明日は、マツと一緒に学校に行けるものと思っていた。

マツも(明日は学校に行ける)と思っていた。


ところが、翌朝・・

ヨネがマツに言った
「マツ、今日もオメーは学校に行かなくてもええからな、野菜を売ってくるんだ」

(えっ・・今日も野菜売りを・・・)マツは、がっかりした・・

それからマツは、関衛門を見た・・(お父は、学校に行くように言うかもしれねー)と思った・・・

ところが関衛門の言葉はこうであった
「昨日は、オメーもちゃんと野菜を売れたではねーか、今日もご飯を食べてから畑に行って野菜を採って、それを売ってくるんだ、ええな」

(・・・・・)

マツが学校に行かないことで武造は大いに不満になった。

マツの風呂敷を持ってきて一緒に行くように促した・・

関衛門が武造に言った(身ぶり)
「マツは学校に行かないからオメー1人で行くんだ!」

武造は、不満いっぱいの顔をしながら仕方なく1人で学校に行った。

(オラも学校に行きてー・・)マツは学校に行く武造を見ていた・・・


ヨネがマツに言った
「畑にいくぞ!」

収穫出来る野菜がいっぱいに生っていた。

せっせと野菜を採って、そして家に戻ってきて野菜を売れるように洗った。

程よい量になってヨネがマツに言った
「マツ、野菜を採ることはもうええから、オメーは野菜を売ってきてけろ!」

マツは昨日と同じようにヨネと2人で行くものだと思った・・

ところがヨネがマツに言った
「今日はオメー1人で野菜を売ってきてけろ、昨日したように売ってくるんだ!」

(えっ・・?オラ1人で行くんだかー・・・?)

マツは悲しくなった・・・

ヨネは、野菜をいっぱいに入れた籠をマツに背負わせた。

「はよー売ってきてけろ!」


マツは、ぐずぐずしていた・・・

ヨネがやや低めの声で言った
「マツ、何をボケっとつったてるんだ!!早く野菜売ってこい!」

マツは“びくっ”とした・・・・それと同時に“ヒック・・”しゃっくりが出始めた・・・

ヨネが言った
「またしゃっくりかー・・そのうち止まるから野菜売ってきてけろ!」

小学校1年生の小さな体に野菜をいっぱい入れた籠を背負いマツは行商に向かった・・

足取りが重かった・・・“ヒックヒック”しゃっくりしながら街に向かって歩いた・・

見知らぬ人の家をまわって野菜を売るのは緊張した・・・


気持ちよく野菜を買ってくれる人もいれば、「野菜かー、いらねーな」と言ってすぐに断る人もいた。

マツは、数件の家をまわってからイヤになった・・

(野菜売り、おもしろくねー・・)

マツは家に帰った・・・

ヨネは随分と早くにマツが帰って来たなーと思ったようだったが、籠の中を見て怒った。

「まだ、野菜いっぱい残っているではねーか、なんで帰ってきたんだ、全部売ってから帰って来い!!また、行って来い」

(えっ・・また野菜売りに行くんだか・・・全部売らないといけねーんだか・・)

マツはがっかりした・・・

posted by junko at 10:45| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年11月27日

初めての行商 第47回

「籠の中に野菜を入れるんだ!」

ヨネに言われるままにマツは、籠の中に収穫したばかりのキューリやナスなどの野菜を入れた。

ヨネは、野菜がいっぱい入った籠をマツに背負わせた。

籠の重みがマツの背中に“ずっしり”となった・・・

「重てー(重たい)・・・」

ヨネは言った
「野菜がいっぱい入ってるんだ、重てーのはあたりめーだ!これから売りに行くぞ!」

そう言って、ヨネ自身も野菜がいっぱい入った籠を背負った。


マツは籠の重みを感じながらヨネについて行った・・・

行商して回るのはたいてい街の方である。


最初の家の前に着くと、ヨネが言った
「ええかーマツ、家の玄関にきたら家の人にまずは挨拶をするんだ、それから、野菜を買ってもらえねーか聞いてけろ、オラがやってみるからよーく見ててけろな」

マツは意味が分からないままヨネの言うことを聞いていた・・・


ヨネが家の人に声をかけた
「こんにちはー」

家の人が出てきた

ヨネは言った
「オラの家で採れた野菜、今朝採ったばかりだ!買ってくんねーか?」

そう言ってヨネは背負っていた籠を下ろした、家の人にりっぱに育ったキューりやナスなどの野菜を見せた。

家の人は、採れたての新鮮な野菜を見て欲しくなった。
「もらうべー」

ヨネは「おしょうしな(ありがとう)」と丁寧にお礼を言った


その家を出た後、ヨネはマツに言った
「ええかーマツ、家の人が野菜を買ってくれたらちゃんとお礼を言うんだ、分かったな!」

マツは、ヨネの家の人とのやりとりを見ていて、野菜を売るということが分かってきた。

それでも、自分はただ野菜を背負ってヨネの後にくっついていくだけだと思っていた・・

ヨネは、次の家、また次の家へと野菜を売るために入っていった。

買ってくれる家、野菜はまだあるから要らないと言って断る家などいろいろである。


数件の家に入ったころ、ヨネはマツに言った
「マツ、オラがやったように今度はオメーが野菜を売ってみろ!」

(えっ?・・・)

マツはびっくりした・・・

自分が見ず知らずの家に入り、声をかけ野菜を売るなど出来ないと思った・・・

(オラ・・出来ねーず・・・)

たじろいでいるマツにヨネは言った
「マツ、オメーも野菜を売るんだ!この野菜売りはこれからのオメーの仕事になるんだ!だから、オラが教えたとおりに売ってみろ!」

(野菜売りがオラの仕事・・・??)

マツは、ぴんとこなかった・・・

「オラの仕事って・・・?どういう事だべ!?」

ヨネはこたえて言った
「オメーは、これからこの野菜売りをするんだ!はよー売ってみてけろ!」

マツは緊張してきた・・・・“ドキドキ”である。

家の玄関の前で緊張が高まり頬も赤くなった・・・

なかなか声を出せない・・・

後ろでヨネは言った
「何してるんだ、はよー声をかけてみろ!」

ヨネのいつもより、やや低めの声を聞いてマツは怒られると思った・・・

(オラ、ごしゃかれる・・・(怒られる))

ついに、マツは声を出した
「こんにちはー」・・・とても小さな声だった。

ヨネが言った
「そんな小さな声では家の人に聞こえねーではねーか!」

マツは今度は大きな声を出した・・

この時点でマツは、ヨネに叱られるほうが恐くなっていた・・それで、精一杯に声を出したのである。

家の人が出てきた、

マツは“ドッキドッキ”と胸が高鳴りながら言った
「オラの家で捕れた野菜、買ってけろ!」

頬が赤らみ、小さな体に大きな籠を背負って立っているマツの姿を見た家の人は微笑んだ!

「行商かー、えらいなー」そう言って野菜を買った!

(買ってくれた!!♪)

マツは嬉しかった! 「おしょうしな」

ヨネは、マツがちゃんと出来たことを褒めた。
「よー出来たず!それでいいんだ!」

ヨネに褒められたマツは、ますます嬉しくなった!


喜んでいるマツにヨネは言った
「この調子で次の家も入ってけろ!」

(えっ?・・またオラが・・?)

ヨネは言った
「籠の中の野菜を全部売らねーと家に帰れねーぞ!」

マツは、籠の中を見た・・・・

(野菜、まだいっぱい入ってるず・・・)
ラベル:行商 野菜
posted by junko at 15:57| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年11月26日

野菜の収穫を手伝うマツ 第46回

「マツに学校をやめさせるんだかー?」とヨネが言った

関衛門はまだ考えていた・・・

ヨネが言った
「親が決めた結婚相手は自分では変えられねーんだ、マツは、自分が養女に来た理由を今からちゃんと話しておけば問題ねーとは思うが・・・」

「んだなー」と関衛門はこたえた

ヨネはさらに言った
「武造には、マツしかいねーんだ!」

関衛門は言った
「たしかにそうだ、武造にはマツしかいねー・・」


そして、関衛門とヨネはマツが学校にいくのをやめさせることに決めた。


《関衛門の家の畑にも、キューリやナスが収穫できるように大きくなっていた》


朝御飯を食べながら、関衛門はマツに言った
「マツ、今日は学校に行かなくてもいいからな!」

マツはこたえて言った
「今日は、学校に行かなくてもいいんだかー?何でだべ?」

関衛門が言った
「今日は、家の手伝いをしてけろ!野菜を採ることを手伝ったり、野菜を売ることを手伝うんだ」

マツが言った
「武造も一緒に手伝うんだか?」

関衛門は言った
「武造は学校にいくんだ」

マツは言った
「なんでオラひとり学校に行かないんだかー?学校に行きてーず!」

関衛門が言った
「オメーは、これから家の手伝いをするんだ!学校には行かなくてもええんだ。」

それを聞いてマツが言った
「なんで学校に行かなくてもいいと言うんだべ!オラ、学校にいきてーず、」


それを聞いてヨネがマツに言った
「ごたごた言うでねー!オメーは学校に行かなくてもええんだ!」

ヨネの強い口調にマツは“びくっ”とした・・・


武造が、マツの手を引いて学校に行こうとした・・

関衛門が武造に、身振り手振りでマツは学校に行かないことを話した

武造は、意味が分からないまま仕方なく一人で学校にいった。


マツは、1人で学校に行く武造の後ろ姿を見ていた・・・

(オラも学校さ行きてー・・)


関衛門とヨネは、マツを畑に連れて行きナスやキューリを収穫するのを手伝わせることにした。

マツの小さな手にしたら野菜はどれも大きく見えた。

(でっけー!(大きい))

野菜の収穫は初めてだったマツは、最初は面白く思ったがすぐに飽きてきた・・・

マツは座り込んで採れたキューリを並べたりして遊び始めた・・

すると、すぐにヨネの怒り声がした
「マツ、何遊んでんだ!ちゃんと野菜採ってけろ!」

(おっかね〜・・・)

マツは野菜の収穫を続けた。

幼いマツにとって、畑での仕事は時間が長く感じた・・・。

野菜の収穫も程よい量を採れると、それを籠に入れて家に運んだ。

(やっと終わったず!♪)

マツは、これで自由に遊べると思った・・。

ところが、ヨネがマツに言った
「マツ、採れた野菜を売りに行くから一緒に来てけろ」

(売りに行く・・?)

マツは、意味が分からないままヨネに付いて行くことになった・・・

マツの行商の仕事の始まりだった・・・

ラベル:野菜 収穫 学校 養女
posted by junko at 15:49| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年11月25日

学校に通うことへの偏見 第45回 

「おなごん子が学校に行ってるなんて・・贅沢だず!」

「んだ、関衛門もよそ者のくせに、耳きんか(武造)を学校に行かせて村に恥じをかかせておきながら、おなごん子(女の子)まで学校に通わせるなんて・・・」

マツが学校に行っていることで、村の人たちの間ではねたみや偏見が強くなっていた。

村人で近くに住む吾一が関衛門に言った
「オメーのところに養女にきたマツが、学校に行ってるなんてええなー、おなごん子(女の子)を学校に行かせる金があるんなら、少しでもオラんとこに恵んでほしいもんだ!」

関衛門はこたえて言った
「おなごん子も出来れば、学校に行って勉強したほうがええと思うからマツを学校に行かせてるんだ!」

吾一は言った
「おなごん子には勉強なんていらねー、将来は嫁に行ってその家に尽くしたらええんだ!!勉強なんて贅沢なことだ!!」


関衛門は、その吾一の言葉が不愉快だった・・それでも、つとめて平静を保ちながらできる限りマツに勉強させたいと思っていることを話した。


吾一はこたえて言った
「オメーの言うてることは分かるが、でもマツもどんどん成長していくべー、男ん子がいっぱいいる中で勉強してると、そのうち・・マツを気に入る男ん子がいるかもしれねー・・・

吾一はさらに続けて言った
「いや、マツの方でも好きな男ん子が出来るかもしれねーではねえか・・・そしたらどうする?
マツだって、耳が聞こえず話も出来ねー男より、普通の男の方がいいと思うに決まってるではねーか?」


この言葉には、関衛門もただ事には思えなかった・・。吾一が言ってることが半ば当たってるように思えた・・・。


(マツが・・・普通の男の方を・・・・)

関衛門は吾一に言った
「オメーの言ってることはよく分かったず、耳の聞こえねー武造のためにマツを養女としてもらったんだ、大きくなったら二人を結婚させるためだ・・・でも、オメーが言うようにマツも成長していくと武造と他の男との違いも分かってくる・・・・はっきり言ってくれておしょうしな(ありがとう)」

吾一が言ったことは、関衛門の思いに大きく影響を与えた・・・。

関衛門はずっとそのことばかり考え続け、ついにヨネにも吾一が言ったことを話すことにした。

ヨネもこれにはかなり動揺した。

それでもヨネは強気に言った
「たとえ、マツが他の男を好きになっても、そんなことは許せねーず、オラたちがマツにちゃんと言い聞かせたら問題ねーず!」

それに対して関衛門は言った
「んだけど(そうだけど)、子どもには10代の難しい時期がくるべー・・異性にも関心を持つ頃だ・・・」

ヨネが言った
「んだけど、親の言うことは絶対だから大丈夫ではねーか?マツにオメーは武造と結婚するんだ!と言えばいいず!」

「んだなー・・・」そう言って関衛門はしばし黙った。

ヨネが言った
「たまに、駆け落ちする男と女のことを聞くことがあるが・・・・マツにはそういうことはねーはずだ・・・」

(駆け落ち・・・)・

(マツが大きくなって・・他に好きな男ができるんではねーか・・・マツが武造と結婚するのを嫌がったら・・・)

関衛門は黙っていろんな可能性を考えた・・

それと同時にマツが成長に伴い、武造が普通と違うこと、また身体障害者に対して、またその家に対して村人たちの偏見が大きいことなど、いろんなことが分かってきて気持ちが変わってくるのを心配になった・・。

マツを養女にもらったのは、耳が聞こえない武造と将来結婚させ、家系を存続させること、それが目的だったからである・


マツの養女としての厳しい現実が現れ始めたのはこのころからだった・・・

posted by junko at 12:05| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年11月24日

前例がない? 第44回

関衛門とヨネは、武造を連れて学校に入学できるようお願いにあがった。

武造を学校に通わせることに学校側も難色を示した・・・

校長が武造を見ながら言った
「耳が聞こえない身体障害者を他の子どもと一緒に勉強を習わせるのは難しいのではないか・・・」

関衛門はそれにこたえて言った
「武造は、耳が聞こえねーけど感がいい子だ、学校に通うことによって武造なりに学ぶことができるはずだから入学できるようお願いします」

そう言って頭を下げ、ヨネも頭を下げた。

武造も両親を見て自分も同じように頭を下げた・・。

校長が言った
「気持ちは分かるが、こういうことは前例がないから・・すぐには答えが出せない・・」

校長は後で連絡をすると言った


数日たってから学校側から連絡が来た

武造の入学を許可するということだった。

先生方の間では、反対が多くかなりもめたようだったが、校長の武造を見たときの様子について話を聞いた時、先生方も武造の入学を前向きに考えるようになった。


校長は武造について話した

「武造は、耳が聞こえなくても自分の目(校長の目)を真っすぐに見ていた、子供らしく好奇心いっぱいの純真な黒い目をしていた・・・親が立つと武造は自分も“さっ”と立ち、親が頭を下げると、自分もすぐに頭を下げた・・・」

校長はさらに話しを続けた
「武造のその動きの早さは、周りの音が聞こえてるかのようだ・・・耳が聞こえない分、周りの雰囲気を機敏に察知するんだろうな・・」


しかし、身体障害者を学校にいれることに「前例がない」ことを他の先生方も気にしていた・・

校長は言った
「前例がないことだけで物事を判断してはいけないかもしれない・・・たしかに、身体障害者を人前に出さないという村の習慣があるが、その習慣は人を偏って見てることだ、やはり、障害者も同じ人間として扱うことが大事ではないだろうか・・?」

先生方は、身体障害者の入学という問題ついてかなりの程度話しあい、そして結論を出した・・。

『武造の入学を許可する』ということである。


こうして武造は入学し、周りを見よう見まねしながら、学校で学んでいった。

=============================================


マツは関衛門の話しを聞き、学校の先生方が武造を受け入れたことを嬉しく思った。

「お父、先生たちも武造が学校に行くことが村の恥だとは思っていねーんだな?」

関衛門はこたえた
「んだ、先生たちも村の恥とは思っていねーんだ!」

関衛門の話しで、マツはすっかり気分が良くなった。


武造とマツは、その後も一緒に学校に行き、一緒に遊んだ!

マツに対する源太たちからの嫌がらせもなくなった・・・

嫌がらせに対して、マツが動じないでいれるようになったことや、武造が学校の帰りにいつもマツを待っていたのも良かった。

マツはほっとした・・(源太たち、もうオラに嫌なこと言わねーず)

嫌がらせもなくなりマツは、気持ちも明るく学校に行けるようになった。


ところが、学校を楽しむマツに試練が臨もうとしていた・・・

posted by junko at 14:14| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。