「武造とマツの物語(新)」

【小説】 身体障害者に理解がない時代にマツは、幼少のとき親同士で決め

た「ろうあ者」との結婚のため養女にいく。偏見や逆境に遭いながらも前向きに生きていく。



2010年12月31日

迎えにいく武造 第58回

(母ちゃん、オラ、養女は嫌だ!うちさ戻りてーんだ!)

マツは、なかなか帰ろうとしなかった・・・

ハルが言った
「オメーはご飯も腹いっぱい食べさせてもらってるべー、うちに戻ったら腹いっぱいご飯食えねーぞ!また、腹すかせたまま寝ないといけねーぞ」

マツは言った
「腹いっぱいにご飯食べれなくてもうちに戻りてーんだ。」

そう言って、また泣きだした・・

ハルは困った・・・母親の内面の情が揺さぶられた・・・

マツを家にもどしたいと思った・・・

マツが養女としての暮らしに辛さを感じていたからである・・・


しかし、ハルは自分の感情を抑えた。

ハルはマツに言った
「マツ、くるみ油での柱磨きがオメーが嫌だという気持ちはよ〜く分かる・・ずっと柱を磨いていたら腕も痛くなるず・・けど、オメーはあっちの家の養女にいったんだ、家の柱を磨くことは、オメーが住んでる家を大事にしてることだ、磨いた部分は綺麗だべー?」

マツが泣きながらこたえて言った
「んだ、磨いたところはピカピカになるんだ!けど、柱磨きは面白くねーんだ・・。」

そう言ってまた激しく泣き出した・・


そこに、武造が来た・・

感の良い武造は、マツが実家に戻ったのではないかと思って来たのである。

泣いてるマツ、困った顔をしているハル、そしてマツを心配そうに見てる姉ちゃたち・・・

武造は、皆の様子をじっと見た・・


ハルは、武造に身振り手振りでマツを連れて帰るようにといった。

武造はマツの手を取り帰ろうとする・・・

マツはじっと踏ん張って動こうとしない・・

武造は、マツをじっと見た・・・

武造のマツを見る目は、キラキラしていた・・そして傘をマツに渡した・・

(武造、オラが傘を持ってきてないことが分かったんだ・・・)

マツは、武造が自分を気遣ってることを感じた・・・

マツは武造の目を見て次第と心が和らいでいった・・・

「母ちゃん、オラ、帰る・・」

そう言って、マツは武造と一緒に帰っていった。

家には、関衛門とヨネが帰ってきていた。

泣いた後の顔をしているマツと、武造が一緒に戻ってきたことで関衛門とヨネはすぐにマツが実家に帰ったことを悟った・・・

柱磨きが嫌だということも分かった。

ヨネがマツに言った
「マツ、これからオメーの好きなサバ缶と大根の煮物を作るから、武造と遊んでてけろな!」

それを聞いたマツは、たちまちてんこ盛りのご飯とサバ缶と大根の煮物を想像した。

「オラ、ご飯できるまで武造と遊んでるず!♪」

そう言うマツの声にはハリがあった。

元気な顔になったマツを見て関衛門とヨネは微笑んだ。

てんこ盛りのご飯とサバ缶と大根の煮物を腹いっぱい食べて満足したマツは、家の掃除と柱磨きの疲れ、そして泣き疲れが出てきて眠くなってきた・・

マツは愛情を欲していた・・・

(お父に抱っこされてー・・・)

マツはその場ですぐに横になった・・・

ヨネが言った
「マツ、そこに寝ないで部屋に行って寝てけろ!」

関衛門がすぐにマツを抱きかかえた・・・

(お父、あったけー(温かい)・・)

関衛門に抱きかかえられて布団に寝かされたマツは、深い安心感のうちに眠りについた・・・。

一方、武造はご飯がすすまなかった・・・

ヨネが言った
「武造、どうしたべ?」

posted by junko at 15:47| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年12月28日

逃げ出すマツ 第57回

(うちに(実家に)帰りてー・・・)

マツの思いには、それしかなかった・・・

(柱磨き、面白くねー・・)

マツは、とうとうくるみを入れた袋を“ポイッ”と放った・・

ヨネたちが近くにいないのを確認してから、すぐに家を出た・・・

外は雨だった・・

マツはそのまま実家に向かって走っていった。

「父ちゃん、母ちゃん、オラだ!マツだ!」

マツは、元気よく実家の玄関に入っていった。

母ちゃん(ハル)が出てきた。

「どうしたんだ、雨にぬれてるではねーか、今日は、雨で行商にいけなかったんだべ?」

母ちゃんの顔を見たらマツは“ほっ”とした。
自分の辛い状況をきっと分かってくれて家にもどしてくれると思った。

「母ちゃん、オラ、くるみで柱を磨くんだ!オラ、それが嫌で家に帰ってきたんだ!」

ハルは、このときにマツが柱磨きをしてることを初めて知った。

だけど、養女に出したことなのでマツのことは、関衛門たちに任せていた。

ハルがマツに言った
「オメーは養女に行ったんだ!あっちのお父とお母の言うことを聞かなくてはいけねーんだ」

そのハルの言葉にマツは、すぐにこたえた
「オラ、腕が痛いのに柱を磨かなくてはならねーんだ、オラ、養女は嫌だ!うちさ戻りてーんだ。」


そこで、マツの声がするので、姉ちゃたちがやってきた。

手には、お手玉を持っていた。

(やっぱり、姉ちゃたちはお手玉をして遊んでるんだ・・)

マツは、ますます家に戻りたくなった。

マツはさらに言った
「オラ、養女は嫌だ!!うちに帰りてーんだ!姉ちゃたちとお手玉してーんだ!」

ハルは、マツの気持ちが分かった・・だけど、ここで甘やかしてはいけないと思った・・

ハルが言った
「なんてことを言うんだ!オメーは養女に行ったんだ!だから、うちに黙って帰ってきてはいけねーだ」

ハルが聞き入れないことを知りマツは泣きだした・・。

マツの姉ちゃたちは、マツが可哀相になり一緒に「お手玉」をしようと誘った。

ハルが言った
「マツは、黙って逃げ出して来たんだ!だから、オメーたちとは遊べねー、マツ、早く家さ帰ってけろ。」

マツは泣きながら言った
「オラ、帰ったらまたくるみで柱を磨かなければならねーんだ、姉ちゃたちと「お手玉」して遊びてーんだ。」


逃げ出してきたマツの訴えをハルは、けっして聞き入れようとはしなかった。

「マツ、オメーはもうここの子ではねーんだ、あっちがオメーの家だ!!だから帰らなくてはいけねーんだ」

マツは、なかなか帰ろうとはしなかった・・・

泣きながら・・「オラ、養女は嫌だ・・」そう言っていた・・。


その頃、武造が学校から帰ってきた。

マツがいないことに気付いた武造は、マツを捜した・・・

マツが放り出したくるみが入った袋を見た・・。

武造は外を見た・・・雨が降っている・・・


関衛門とヨネも出かけていなかった。

武造は、傘を2本持って家を出た・・・。

posted by junko at 15:48| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年12月21日

筋肉痛 第56回

柱の横に座り込んでいるマツを見たヨネが言った
「マツ、疲れたベー」

(ごしゃかれる(怒られる)・・・)マツは、ドキドキした・・

マツはヨネの顔色をうかがいながら言った
「腕が疲れたず・・・」

ヨネが言った
「だべー、けど、この柱磨きはこれからのオメーの仕事になるんだ、行商に行けない時はこのように家の中の柱を磨くんだ、武造が学校から帰ってきたら武造と遊んでいいからな。」

(この柱磨きがオラの仕事に・・・)

マツは、この単調な柱磨きの仕事がこれからもずっと続くことを知りガッカリした・・・。

野菜の行商に行かない日は、家の中で掃除して「くるみの実」(くるみ油)で柱を磨くことになったマツは、実家にかえりたいという思いが強くなっていった・・

(オラ、養女は嫌だ、うちさ(実家に)帰りてー・・・)

それでもマツは、武造が学校から帰ってくるまで柱磨きを続けた・・・


初めて柱磨きをした次の日も雨だった。

(腕が痛てー・・)マツの腕は、筋肉痛になっていた・・

(オラ、腕が痛てーから今日は柱磨きをしなくてもええんだ!♪)

マツはそう思った・・・。


ヨネがマツに言った
「マツ、昨日のように柱磨きをしてけろな!」

(お母もオラが腕が痛てーことを知ったら、柱磨きをしなくてもいいと言ってくれるず。)

マツは期待を込めてヨネに言った
「お母、オラ腕が痛いんだ、柱磨けねーず・・・」

ヨネが応えて言った
「腕が痛い?それは、筋肉痛だ!筋肉痛を治すには、筋肉をもっと使うことだ!柱磨きをやってたら治るず!」

期待とは逆でヨネの反応は、あっさりだった。


(・・・・オラ、腕が痛てーのに・・また柱を磨かなければならねーんか・・・)

マツは、仕方なく「くるみ油」での柱磨きをした・・・

(腕が痛てーのに、柱磨きは出来るず・・・)

たしかに、腕が痛かったが、柱磨きには支障はなかった・・・


腕を上下に動かしながら磨く、この単調な作業は小さなマツにとって全く面白くなかった。

ただ、自分が磨いた部分に光沢が出てキレイになるのを見ることだけが嬉しかった。


武造が学校から帰ってくるまで、何時間も柱磨きが続く・・・

長い一日である・・・

とうとうイヤになった・・

(オラ、養女は嫌だ!)


posted by junko at 15:20| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年12月17日

くるみ油で「柱磨き」第55回

日本手ぬぐいを袋状にしたものの中に、くるみが入っていた。

ヨネがマツに言った
「これで、柱の一本一本を磨いてけろ!」

マツは、意味が分からないでいた・・(柱を磨く・・?)

ヨネは、柱をこすりながら「こうやって磨くんだ!」と言って手本を示した。

マツは、柱を上下にこすり磨いてみた・・

ヨネが言った「もっと力を入れないとくるみの油が柱につかないではねーか、それでは、柱に艶がでねーぞ。」

マツは力を入れた

柱をこすって磨いていると柱に“艶”が出てきた。

「ピカピカに光ったず!♪」

ヨネが言った
「そうだ、そのように艶が出るように磨いてけろな。」

マツは、柱に艶が出てきたことが面白かった。

夢中になって柱を“きゅっきゅっ”と磨いていった。

ところが、腕を上下に動かして磨く作業は、すぐに腕が疲れてきた・・・

(腕が疲れた・・)

マツは、休みながら磨いたところと磨いてないところを見比べた。

自分が磨いたところが艶が出てきれいになったのが嬉しかった、

少し休んでまた、磨きはじめる・・

しばらくすると、すぐに腕が疲れる・・・

幼いマツにとって、柱磨きの単調な作業はすぐにあきてきた・・・

(柱磨き、面白くねー・・)

マツはだんだん嫌になってきた・・・

マツは柱の横に座り込んだ・・

(姉ちゃたちは、お手玉して遊んでるべー・・・オラもお手玉してーず・・)

マツの姉ちゃたち(姉さんたち)は、雨で行商に行けない時は、家の中でお手玉をしたりして遊ぶのが常だった。

実家にいたときのことを考えれば考えるほど、実家に帰りたくなった・・

(オラ、養女は嫌だ・・父ちゃん母ちゃんと一緒に暮らしてー・・・)

ラベル:くるみ油 柱磨き
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2010年12月15日

雑巾がけの達成感! 第54回

(いい匂いだ〜♪)

薪で炊いた香ばしいご飯とお味噌汁の匂いに食欲をそそられながら外を見た。

雨が降っていた、その雨の音は行商から解放してくれる音に聞こえ心地よかった。

(今日は、野菜売りに行かなくてもええんだ♪)

マツは笑顔になった。


ヨネがマツに言った
「マツ、今日は行商に行けねーから家のことをしてけろな。」

(家の事・・・?学校には行けねーんだべか・・?)

マツはがっかりした・・

感の良い武造は、雨降りでもマツが学校に一緒に行けないことが分かった、

ヨネの腕をゆすりながら外を指さし、雨が降ってるから今日はマツも学校に行けるようにと訴えた。

ヨネは、首を横に振った。

関衛門が武造に、「マツは、家の中の掃除をするんだ」といった(身ぶり手ぶり)

不満そうな顔をしながらも武造は、1人で学校に行った。


ヨネは雑巾と水の入ったバケツを持ってきてマツに言った
「この雑巾で、家の中を拭いてきれいにしてけろ!」

言われたとおりにマツは、バケツの中の雑巾を絞った・・

ヨネが言った
「そんな絞り方では、家の中がべちゃべちゃになるでねーか、もっと堅く“ぎゅっ”と絞るんだ!」

(お母、おっかねー)

ヨネのやや強い口調の言い方をされたマツは、ヨネの顔色をうかがいながら雑巾で家の中を拭いていった。


マツは、雑巾がけをしたところとしてないところを見比べながら、拭いていった。

しばらくすると、疲れてきた・・

ヨネが側にいないのが分かると、少し休んだ・・

休みながらも、雑巾がけしてきれいになったところを見て、達成感のようなものを感じた。

(拭いたところ、きれいになったず!♪)


一通り家の中を雑巾がけすると「くたくた」になった。

(雑巾できれいにしていくのも疲れるず、ずっとやると面白くねーもんだ・・)

マツは雑巾がけの途中から、単調な仕事なのであきてきたのである。


そこへヨネが来た・・日本手ぬぐいで作った袋にくるみを入れて持ってきた。

マツは、きれいに雑巾がけをしたことで褒められるものと期待した・・・

ヨネが言った
「雑巾がけが終わったら、今度はこれで柱を磨いてけろ」

(・・柱を磨く・・?)

posted by junko at 17:05| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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