「武造とマツの物語(新)」

【小説】 身体障害者に理解がない時代にマツは、幼少のとき親同士で決め

た「ろうあ者」との結婚のため養女にいく。偏見や逆境に遭いながらも前向きに生きていく。



2011年02月28日

しばしの別れ 第69回

武造は、マツの着物を持ってきた・・

マツも一緒に出かけるためである。

ヨネが武造に言った(身ぶり手ぶり)
「マツはいっしょには行かねーんだ、オメーとオラと2人だけで行くんだ。」

そう言ってヨネはマツの着物を武造から取り、元の場所に戻した。

武造は、マツが一緒に行かないのを知り不満そうな顔になった・・

ヨネが武造に言った(身ぶり手ぶり)
「武造、オラと汽車に乗って温泉に行くからな、汽車に乗れるんだぞ!嬉しいべー」

汽車・・・

武造は汽車に乗れると聞いて先ほどまでの不満そうな顔が急に嬉しそうな顔に変わった。

そして、武造は出かけるための身の回りの荷物をチェックし始めた・・・


(汽車かー・・・いいなー・・・オラも乗ってみてーず・・)

マツは汽車に乗れる武造がうらやましく思った・・・


宮城の鎌先温泉に湯治に出かける日の朝、武造はまたもや嬉しそうに荷物のチェックをしている・・

そして出かける時間が来た・・・

関衛門とマツも見送りに一緒に駅に行った。

武造は汽車を見て興味津々のようである・・・

汽車のあちこちを見て観察する。

マツとしばしの別れということを忘れているかのようだった・・。

汽車が出る時間になるとヨネが武造に言った
「お父とマツに手を振るんだ、しばし会えないからな!」

・・・

汽車を見てハッスルしていた武造は急にしばしの別れに気づいた・・・

その顔は悲しそうになり・・そしてゆっくりと汽車が出発し始めると、武造の目に涙が浮かんだ・・・

汽車の窓から手を振りながら武造は泣いた・・・


マツも大きく手を振った・・

汽車が見えなくなるまで手を振り続けた。


ヨネはその日のマツの行商のために、いつもより早く起きて野菜の準備をしてあった。

(籠の中、いつもといっしょだず・・・)

マツはがっかりした・・・

(行くしかねーず・・・)

マツは籠を背負い行商に向かった。

街に着くと家々を訪問して回った・・。


ある家に入った・・
「こんにちはー、誰もいねーんだか?」

誰の声もしない・・・

「お留守か・・」

マツは次の家に向かおうとした・・

「・・ガサッ・ガサッ・」

(誰かいる・・?)

その音にマツはもう一度声をかけた
「誰かいますかー?」

「・・・・」

(やっぱり誰もいねーんだ・・)

マツは籠を背負いなおして行こうとした・・

「・・ガサッ・・」

また何かの音がした・・

(・・何だべ・・・?)


posted by junko at 15:43| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年02月21日

カステラの切れ端 第68回

次の日の朝も武造は、具合が良くならず起きてこなかった・・・

マツは武造の部屋を覗いたが、武造は布団から出てこなかった・・

外でヨネの声がした
「マツ、籠に野菜入れたから売ってきてけろな。」

マツの手足のしもやけはひどく、歩くのもぎこちない・・

(あちこち歩き回って行商するのは足が痛くてきついず・・・お得意さんができたら、野菜早く売れるんだ・・)

マツは、次の日、真っすぐに向かったのは、「大島家」だった。

※ 大島家は、以前にマツがカステラをごちそうになったお菓子屋さんである。

途中、同じく行商をしている子供を見かけた・・・

(あそこは、オラのお得意さんにするんだ!)

マツは、そう思って足が痛いのを我慢しながら、速足で大島家に向かった。

(手と足が痛てー・・)

大島家に着いたときには、マツの手足の痛みは最悪な状態だった・。

速足で来たマツは息が切れた・・「ハァーハァー」

深く深呼吸をして息を整えてから、大きな声で言った
「こんにちはー」

大島家の女将が出てきた。

マツは、にこっと微笑み、
「この前はカステラをごちそうしてくれておしょうしな(ありがとう)とても旨かったず」

続けて言った
「朝、オラのお母が畑で採った野菜だ、買ってくんねーか?」

女将は、マツが最初に自分に感謝をしたことに感心した

女将が言った
「オメーは、礼儀正しいなー」

それから、マツの手を見た・・

(手が真っ赤になったしもやけの子供)と思った・・。

女将は、「野菜買うから、その前に少し温かいお茶を飲んでいってけろ」と言ってマツを家の中に入れた。

(あったけー(温かい)♪)

温まった湯飲みが、冷え切ったマツの手に心地よかった。

女将は、カステラを出してきた。

(カステラだ♪♪)

「旨めー♪」

ふわっと柔らかく、程よい甘さが口の中で広がり、どんどん食べたくなっていく旨さ!

(大島家に来てよかった〜♪)

マツにとって極上のお菓子のカステラ!

皿にあったカステラを、あっという間に食べてしまった・・

女将は、マツのその食べっぷりを見て微笑み言った
「旨いべー」

女将は「これは、お土産だから持って帰ってけろな」

と言いカステラの切れ端を一袋いっぱいに入れてマツに持たせた。

マツは袋にいっぱい詰められたカステラの切れ端を見て嬉しかった。

「おしょうしな(ありがとう)」

それから、女将は、マツの籠の中の野菜を買った。

それでも、籠の中にいっぱい入っていた野菜は、大島家だけでは全部無くなることはなかった。

女将がマツに言った
「またいつでも来てなー、オメーの野菜、買うからな。」

(やったず!♪お得意さんがまた出来た!♪)

※ それから、大島家はマツの生涯に渡る行商のお得意さんになった。

大島家を出てからの行商は、この日は比較的に早く売れた。

マツは、いつもより早く野菜を完売して家に戻った。

一方、武造は、少し体調が良くなり起きていた。

そして、マツの帰りを待っていた・・・

マツの帰ってくる姿が見えると急いでマツに近寄り、しもやけで真っ赤になったマツの手を自分の手で覆い温めた。

マツは、お土産でもらったカステラを武造に見せた。

武造は喜んだ!

具合が悪くてご飯もろくに食べれなかった武造が、カステラの袋を開け食べ始めた・・

武造の嬉しそうな顔・・

そして、次から次に武造の手が、カステラの袋のなかに入る・・。

武造とマツは、家の中に入る前に袋いっぱいあったカステラの大半を食べた。

そこで、ヨネの声がした・・
「武造、そんなに食えるんだったらもう大丈夫だな!」

ヨネは続けて言った(身ぶり手ぶり)
「武造、オメーはこれからしばらくオラと一緒に湯治にいくんだ、湯治にいったら体が丈夫になるからな。」

マツがヨネに聞いた
「湯治ってどこに行くんだず・・?」

ヨネがこたえて言った
「宮城にある鎌先温泉というところだ、 一條旅館という宿は、自炊しながらゆっくり温泉で養生できるそうだ、だから、しばらくオラと武造は、家にいないからな。」

武造は、ヨネの言ってることが分からないでいた・・

ヨネが自分と武造の荷物を準備するのを見て、不思議そうな顔をした・・・

それでも、自分はヨネとどこかに出かけることを知った・・

武造は、納得できない顔をしてあるものを取りに行った・・

マツは、武造が手にしてきたものを見た・・

(オラの着物・・)
posted by junko at 16:00| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年02月14日

初めてのお得意さん? 第67回

「ヒック・・ヒック・・」

マツは、しゃっくりをしながらあるところに向かった。

それは、今まで訪問するのを抜かしていたところであるが今回は、

(もしかしたら籠の中の野菜、一気に売れるかもしれない・・)

マツがそう思って向かったのは、織物工場である。

織物をしている人たちが集まり仕事をしている・・・

マツは、工場の入り口に着くと、深く深呼吸をした・・・

そして、思いっきり“にこっ”と頬笑み元気な声をだして言った
「こんにちは!遠田(マツが住んでいる集落)から来たんだけども・・」

織物の仕事をしていた人たちが、いっせいにマツの方を見た・・。

20人はいる・・

マツは皆の視線を一気に浴びた・・・

マツは、明るく大きな声で言った
「遠田のオラのうちの畑で朝に採った野菜、皆で買ってくんねーか?」

織物工場の親方が、マツに近づき言った
「遠田から来たんか、この寒い時に遠くから御苦労さんだなー、どれ、野菜、見せてけろ!」

そして、親方は野菜を買い、他の人たちにも言った
「オメーたちも、野菜要らねーか?」

「野菜か・・どれどれ・・・」

そう言いながら、皆が近寄ってきた・・

そして、それぞれが野菜を買った。

籠の中の野菜は、一気に減った。

(やったず!♪)

親方がマツに言った
「オメー、しもやけがひどいなー・・・早く、うちに帰って温まったらえぇー」

親方は続けてマツに言った
「オメーの野菜買うからまた来てなー」と言い微笑んだ。

親方は、しもやけで真っ赤に腫れあがった手をしながら明るく行商している小さな女の子、マツを気に入ったのである。


※それ以来、マツの生涯中、この織物工場はマツの行商のお得意さんになった。

自分が思った通りに野菜が売れたことで、マツは達成感を感じた。

さらに、「また来てなー」と言われて嬉しかった♪

マツは、工場から出た後、達成感に浸っていた。

(ん・・?しゃっくりが止まっている・・♪)


一気に売れた野菜だったが、籠の中には、ほんの少し野菜が残っていた・・・

マツは、野菜を全部売らないと帰ってきてはならないとヨネに言われていた。

(野菜全部売ってから帰らねーと、オラ、ごしゃかれる・・)

けども、足が痛いのとあたりが暗くなりはじめてきたのとで、マツは帰ることにした。

家に着くとヨネが出てきた・
「全部、売れたか?」

マツは“ドキドキ”した・・

「少し、残ったんだ・・」

ヨネは、籠の中の野菜と野菜を売ったお金を調べはじめた・・・

(オラ、ごしゃかれるんだべか・・・?)

そこへ、関衛門が出てきた
「マツ、暗くなるまでがんばったなー!今日は寒かったべー、はやく家の中に入って温まってけろ。」

マツは、ヨネの顔を見た・・・

ヨネが言った
「お金は合ってるず、野菜残ったのはしょーない、早く中に入って体を温めてきてけろ。」

マツはほっとした。

マツは、この日の行商のことを話したかった・・

武造は、具合が悪く起きてこない・・・

マツは、関衛門に織物工場でのことを話した。

関衛門がマツに言った
「それは良かったなー、野菜を何とかして売るというオメーの意気込みが道を開いたんだ!、その織物工場は良いお客さんになったんだ、関係を大事にしていったらえぇー。」

そしてさらに言った
「野菜をよく買ってくれるお得意さんを見つけていったらえぇーぞ!」

その時から、マツは行商でお得意さんを見つけるのが行商をやりやすくすることが分かった。

そして思いついた!

(そうだ!あそこもお得意さんに出来るかもしれねー・・)
posted by junko at 15:02| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年02月07日

行商でのライバル 第66回

しもやけで痛い足をかばい、ぎこちない歩きをしながらマツは、次々と家を訪問した。

マツは、行商の仕事になかなか慣れなかった・・・

(行商、嫌だ・・・)

マツは、行商が嫌いだッた・・

それでも、「今は野菜あるから買ってあげられねーけど頑張ってなー」と言って励ましてくれる人に会うと、次の家に向かう力を得ることが出来た。

しかし、家の人は様々である・・
「野菜か、いらねー!」とぶっきらぼうに言われることもある・・・

マツは、がっかりして行商なんかやめてしまいたいと思った・・・

マツの籠はなかなか軽くならない・・

それだけではなく、マツの行商をさらに困難にすることがあった・・

行商のライバルである・・

当時は、学校に行けない子どもたちは行商をすることがほとんどだった。

マツが、以前に野菜を買ってくれた家に入ろうとすると・・

ライバルの子どもは、「そこは、オラが入るんだ」そう言って、マツより先に入り野菜を売って出てきた。

行商で街を回っているうちに、野菜をよく買ってくれる家を、他の行商の子も分かってくる。

ライバルは、そこの家に自分が先に入るのである。

しもやけで足が痛いマツは、買ってくれそうな家をライバルの子に先を越されて籠の中の野菜は、なかなか減らなかった。

(足と手が痛てーず・・・)

マツは、“ハァー”と手に息をかけ温めた・・・

「ヒック・・?」

「ヒック・・ヒック・・」マツのしゃっくりがまた始まった・・・

マツは、“ぐっ”と息を止め・・しゃっくりを止めようとしたが止まらない・・

何とかしゃっくりを止めようとしばらく立ち止っていると体がますます冷えてくる・・・

寒いのと手足が痛いのと、野菜が売れないのとマツは泣きたくなった・・・

マツは籠の中の野菜を見た・・・

ヨネが朝早くから収穫してきて、あかぎれで亀裂が入った手で野菜を洗い、籠に入れたものである・・・

(野菜、早く売らねーといけねー・・)

マツは、あることを思いついた・・・

(もしかしたら・・・買ってくれるかもしれねーず・・・)


posted by junko at 11:10| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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