「武造とマツの物語(新)」

【小説】 身体障害者に理解がない時代にマツは、幼少のとき親同士で決め

た「ろうあ者」との結婚のため養女にいく。偏見や逆境に遭いながらも前向きに生きていく。



2011年05月23日

結婚の誘い 第80回

(明日、またあの家に寄ってみよう・・)

次の日もマツは、その気になる家(耳が聞こえな女性(この時、二十歳ぐらい)のいる家)に行商に行った

奥さんはすでに仕事に出かけていて、旦那さんが風呂敷袋を小脇にかかえ出てきた
「野菜かー、今日は少し買うべー」

そう言って、野菜をいくらか買いすぐに出ていこうとした。

マツが聞いた
「旦那さん、何の仕事をしているんだかー?」

旦那さんが言った
「オラ、散髪する仕事だ、これからお客さんの家に行って散髪してくるんだ」

※ 当時、上長井村では散髪をお客の家に行って仕事をしていた(出張散髪屋)

旦那さんが、出かけた後、マツは声をかけた

「・・・」

家の中からは誰も出てこない・・

(今日は出てこねーず・・)

その日は、耳が聞こえないその女性には会えなかった。


このころ十代後半になっていたマツは、丸顔で愛らしい乙女に成長していた。

養女として育ての親に気を使いながら暮らしてきたマツは、辛抱強さと慎みなど自然と自分の内で上手く生活する方法を身につけていた。

周りの人もそのようなマツを見て好ましく思っていた。

マツはお得意さんの下駄屋に行った
「いつも野菜を買ってくれておしょうしな(ありがとう)」

いつものように下駄屋の奥さんは野菜を買う。

それからマツに言った
「マツ、オラんとこの息子の嫁にならねーか?」

突然の結婚の申し出にマツは戸惑った・・・

※ 当時(大正)上長井村では、子供の結婚は親が決めるのが普通だった。

下駄屋の奥さんがさらに言った
「オメーが、オラの家(下駄屋)に嫁にきたらもう行商しなくてもいいんだ!暑い日も寒い日もオメーは、野菜を売り切るまでじっと辛抱しながら行商しているなー、んだけど、オラの家は下駄屋だ、家の中にいて店番をするだけでいいんだ。」

(行商をしなくてもいい!♪)

マツは、その言葉に魅力を感じた・・そして、下駄屋の息子を思い浮かべた・・・

マツは、行商をしながらたまにその息子に会う事がある・・

さわやかで感じがよく、実直な好青年である。

けれど、マツは結婚をまだ考えていなかった

マツが言った
「オラ、結婚はまだ考えられねーだ」

それに対して下駄屋の奥さんが言った
「オメーの住んでいるところは、遠田だべー、「遠田には嫁にやるな」と昔から言われてることだー、遠田に嫁に行くと、一生こき使われるだー、苦労するぞ。オメーは今までも苦労してきたから、これから先の人生も苦労することはねー、オラの家は農家ではねー、下駄屋だ、店番するだけでえぇんだ。だから、嫁に来ねーか?」

結婚を全く考えていなかったマツは、丁寧に断った。

行商の帰りに吾一の息子の吾介に会った

吾介がマツに言った
「マツでねーか、行商がんばっとるなー。オメー、ほんとに武造と結婚するんだかー?」

マツは、また結婚の話かと思い「オラはまだ結婚のことは考えてねーだー」
そう言って帰ろうとした。

ところが吾介がさらに話しかけてきた
「耳きんかの武造と結婚して、オメーは幸せになれるんだかー?」

(武造と・・?)

posted by junko at 11:20| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年05月20日

耳が聞こえない?第79回

「うー・・」その子は、マツの手にあるカステラを見ている・・

マツが言った
「もっとカステラ食べるべか?」

「・・・」

何もこたえない・・

マツがカステラの入った袋を差し出すとその子は袋に手を入れ、手のひらいっぱいにカステラの切れ端を取った。 そして、それを口の中に入れる。

その子は、おいしそうに食べながらマツの顔を興味深そうに見ている・・。

マツもその子をじっと見た。

マツがもう一度名前を聞いた
「名前、何ていうんだかー?」

「・・・」

その子は、何もこたえない・・ただ、カステラを食べながらマツを見ているだけである・・。

マツは何となく気付いた・・・

(武造とにている・・?)

マツは手ぶり身ぶりをしながら話してみた。
「それ、旨いべー?」

その子は、マツの身ぶりを見て分かったような表情をし、コックンとうなずいた。

(やっぱり・・武造と同じだ、耳が聞こえねーんだ。)

マツは、カステラの切れ端が入った袋から、カステラをその子のために取り分けた。

マツが言った(身ぶり)
「これ、オメーの分だ、食べてけろ!」

その子は、嬉しそうにマツの手からカステラを受け取った。

マツが言った
「オラ、これで帰るべず」

そう言ってマツは、籠を背負いその家を後にした・・

少し離れたところでマツは振り返った・・

その子は、窓からずっと見ていた・・・

(あのときと同じだ・・・)

マツは、小さいころ女の子が自分を見てたように思ったことを思い出した。

(あのおなごん子(女の子)が大きくなったんだ・・・)

それからマツは、その子のことが気になり始めた・・・

武造と同じで耳が聞こえないという境遇で生きているその子が身近に感じた・・

マツはいろいろ疑問に思い始めた・・

武造が耳が聞こえない身体障害者ということで、マツの家は村人からの偏見が強かった。

(あの人は、どうやって暮らしているんだべか・・?)

posted by junko at 10:58| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年05月09日

座敷わらしとの対面 第78回

だれもいないはずの家の中で音がした・・

マツは玄関を開け、声をかけた
「こんにちは、野菜はいらねーかー?」

「ゴトッ・・」

(やっぱり何かいるず・・・座敷わらしにちがいねー・・)

マツは好奇心と得体の知れないものへの不安が思いの中をかけめぐった・・

もう一度声をかけた
「こんにちは」

「ゴトッ・・ゴトッ・・」

マツは以前に見た記憶からオカッパ頭の女の子を想像していた・・

(あの座敷わらし・・・おなごん子がまだこの家にいるんだ・・)

声をかけても姿を見せないのでマツは思いついた

(大島家からもらったカステラの甘い匂いをさせたらどうだべか・・?)

マツはカステラの切れ端が入った袋を開けた・・
そして、匂いがするように袋を振ってみる・・

すると「ゴトッ・」という音がしなくなった・・

「・・・・・」

マツは食い入るように襖を見、襖が開く瞬間を待った・・・・

〈スー・・〉と襖が少し開いた!

(襖が開いた!・・)マツはドキッとした・・

少し長めのオカッパ型の黒い髪・・顔を見せたその子は、小さな女の子ではなかった・・。

(・・ん・?おなごん子ではねー・・?オラより年上??・・)

マツより3、4歳上に見えるその子は、マツを見て驚いた顔をした・・・

そして、すぐに襖の裏に隠れた・・

マツが言った
「カステラ食べねーかー?」

「・・・」返事はない・・

マツは黙ってもう一度その子が顔を出すのを待った・・

〈スー・・〉と襖が開いた・・

マツはすぐにカステラを差し出した・・カステラの甘く芳ばしい香りが漂う・・

その子は、カステラの香りにつられて部屋から出てきた・・

マツが言った
「カステラ食べてけろ!旨いず。」

その子は、おそるおそるマツに近づいてくる・・そして、マツの手からカステラを受け取った。

そして、口に入れる・・

マツが言った
「旨いべー?カステラは好きだかー?」

「・・・」

その子は返事をしようとしない・・

マツはさらに聞いた
「オメーはここの家の人だかー?」

「・・・」

「オラはマツというんだ、オメーは名前は何て言うんだかー?」

「・・・」

マツが何を聞いても返事をしない・・

(??何だべ、何で何もいわないんだべか?)

(この人があの座敷わらし・・?妖怪ではねーず・・・普通の人間のようだけど・・?)

その子が声を出した・・
「うー・・」
posted by junko at 10:44| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年05月07日

日露戦争の思い出 第77回

関衛門が、勲章授賞式から帰ってきてから親戚でその祝いをすることになった。

「あんこもち」と「納豆餅」をつくり祝った。

《関衛門の家で作る「あんこもち」は、くるみをすり鉢ですりつぶし、水を少し加えペースト状にして、それを「あんこ」の上にかけて食べた。あんこの甘みとくるみの旨さが絶妙にマッチして美味しい♪》

この「あんこもち」はマツも大好きで、喜んでお餅作りを手伝った。

一方、武造は「納豆餅」が好きで、武造は納豆餅を食べるときはほとんど噛むことなく飲むようにして食べていた。

(当時、その地域ではお餅を噛んで食べるのではなく、飲むようにして食べることが普通だった。)


祝いが始まり、日露戦争のときに軍曹だった関衛門が「勲章」を見ながら、陸軍として激戦区で戦っていたときに、銃弾が関衛門の頭をかすめヘルメットに穴が開いたことを話した。

しかし、関衛門はそれ以上のことは何も話そうとはしなかった。

マツの実の父親(豊三郎)が、「勲章」を見て言った
「オメーは戦争でりっぱな働きをしたから天皇陛下から勲章をもらえたんだ!村の人たちに自慢してもええことだ!オメーたちをよそ者としてみてる村の人たちを見返してやればえぇ!」

その豊三郎の言葉に、周りにいた親戚の人たちが言った
「んだ、んだ、見返してやればえぇんだ!」

しかし、関衛門はちがった・・。

関衛門が言った
「この勲章はオラと一緒に働いた戦友たち皆のものだ!大怪我した戦友、死んでしまった戦友・・・・皆・・国のために一生懸命に戦ったんだ!何もオラが自慢することではねー」

そう言って関衛門は戦いのことで胸がつまる思いをしながら勲章を見つめた。


※ その勲章は今でも関衛門の家に大事に保管されている。

祝いも終わり、次の日からはまたマツは行商にいった。

マツは、行商でのお得意さんも増えていて、以前ほど行商が嫌ではなくなっていた。

ときどき、お得意さんの大島家で「カステラの切れ端」を袋いっぱいにもらうのも嬉しかった。


マツはたびたび思い出していた・・・

(あの家をちょっと見てこよう・・あの座敷わらしはどうなったべ・・・今でもあの家にいるんだべか・・?)

マツは、あれ以来その家を訪問しても座敷わらしを見かけなかった・・・

(オカッパ頭のおなごん子の座敷わらし・・・)

その家に近づいたとき家の旦那さんが出てきてマツを見て言った・・
「野菜かー、今日はいらねーなー、オラ、今から出かけるから・・お母も今いねーし、また今度な。」

そう言って旦那さんは、風呂敷包みを小脇に抱え急いで出かけていった。

(なーんだ・・行ってしまったず・・)

仕方なくマツが帰ろうとしたその時・・・

「ゴトッ・・」

家の中から音がした・・


posted by junko at 21:25| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年05月03日

勲章を受賞する!第76回

その後、マツは、行商と柱磨きがきつかったこととヨネが厳しく恐かったことなどで、数回ほど(養女はイヤだと言って・・)実家に泣きながら逃げ帰ったこともあった・・・

それでも、マツはてんこ盛りのご飯に元気づいた・・。

そのようにして月日は経ち、武造とマツも10代後半になった

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マツがいつものように行商から帰ってくると、関衛門とヨネが興奮した口調で話をしていた。

(何だべ?なにかあったんだべか・・?)

いつもヨネが売上金をチェックするので、この日も野菜を売って空っぽになった籠を下ろした。

ところが、ヨネはマツのところにはこなかった・・と言うより売上金をチェックするのを忘れているようである。

マツは不思議に思いながら家の中に入った。

関衛門が手紙のようなものを大事そうにもっていた・・。

(あの手紙は何だべ・・?)

関衛門とヨネをじっと見ているマツに、ヨネが言った。

「お父が、えろーもん(すごいもの)をもらうことになったず!」

「えろーもん・・?」とマツが言った。

「んだ、天皇陛下から勲章をもらうことになったんだ!」とヨネが言った。

勲章?)

ヨネが興奮気味にさらに言った
「お父が、日露戦争で日本国のためにりっぱな働きをしたことが天皇陛下から認められたんだ!んで、勲章の授賞式に出席するようにという手紙を天皇陛下からもらったんだ!」

その勲章授賞式への招待の手紙をじっと見ている関衛門。

武造は、今まで見たことのない嬉しそうな顔をして話している親たちを見て何があったのかを知りたく思った。

耳が聞こえない武造は、勲章と天皇陛下の意味を理解できないようだった・・

関衛門が、武造に言った(身ぶり手ぶり)
「天皇陛下は国で一番偉い人であり、その天皇陛下から働きが認められた人だけにあげるのが「勲章」であることを教えた」

勲章 勲章



武造は関衛門のいうことを必死に理解しようと努め・・

東京に一番偉い人「天皇陛下」がいて、自分の父親が天皇陛下から大事なものをもらえるということを理解した!!

関衛門とヨネの今までに見たことのないほどの嬉しい表情を見た武造は、天皇陛下が“凄い人”であると思うようになり・・・

天皇陛下を神様のように思いはじめるようになった。

そして、その天皇陛下から認められた自分の父親も偉いんだと思い、父親のことを誇らしく思った!!

武造は、村の人に会うと「自分の父親は偉いんだ!」と手振り身振りでいった・・

ところが、身体障害者の家に対する偏見はまだまだ根深かった・・

父親の事を誇らしげにいう武造に村人は言った
「武造、オメーの家には良いことは何もねーべー、オメーは耳きんかだからな」

そのように武造を馬鹿にした・・・。

“ぐっ”とくる武造・・

10代後半になっていた武造は、そのような村人たちの偏見を敏感に感じ、辛い思いをしていた・・


posted by junko at 17:14| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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