「武造とマツの物語(新)」

【小説】 身体障害者に理解がない時代にマツは、幼少のとき親同士で決め

た「ろうあ者」との結婚のため養女にいく。偏見や逆境に遭いながらも前向きに生きていく。



2011年07月30日

肌身離さず・・第89回

結婚の申し込みの手紙を“じっ”と見ている武造。

関衛門たちは、武造がその手紙を放さず見ているので、よほど驚いたんだろうと思っただけで、それ以上は考えなかった・・・。

マツも、武造宛てに埼玉の女性から結婚の申し込みの手紙が来たことを知ったが、ただの好意的な内容の手紙だと思い、気に留めようとはしなかった・・


ところが、その後も武造はその手紙を肌身離さず持ち歩き、開いては“じっ”と見るようになった・・・

その表情も“ぽ〜”としていて自分の世界にハマっているかのようである・・・


関衛門たちは、明らかに様子がおかしくなった武造が、埼玉の女性に関心を持ち始めたことがわかってきた。

関衛門がヨネに言った
「武造は、埼玉のおなごん人(女の人)の手紙を肌身離さずに持ち歩いているではねーか、マツとの結婚式をひかえているときに、武造は何を考えているんだべ・・?」

それに対してヨネが言った
「武造は、おなごん人から結婚を申し込まれて、のぼせあがっているだけだべー、武造は、マツを好いているんだ、他のおなごん人との結婚を考えることはねーべー」

関衛門が言った
「んだなー、武造はマツを好いている・・・けども、あの手紙を持ち歩くのは良くないず」

そう言って関衛門は武造からその手紙を取ろうとした・・・

「その手紙、オメーがずっと持ち歩くのはよくねー、こっちによこしてけろ」

武造は、手紙を渡そうとしない・・

ヨネも武造に言った
「その手紙、オラによこしてけろ」

武造は決して渡そうとしなかった・・・


武造とマツの結婚式の準備を進めていた時期だったので、家の中は困惑し始めた・・・。


関衛門が武造に言った
「武造、オメーの今の状態は良くねーぞ、その手紙をまともにうけとったらいけねー、そのおなごん人はオメーの事はなにも知らねーんだ、オメーもその人のことを何も知らねーべ、だから、その人との結婚なんてまともに考えることでねーんだ、オメーはマツと結婚するんだべ、他のおなごん人の手紙を持ち歩くのはいけねーことだ、その手紙は捨てるんだ。」


それでも武造は、手紙を離さそうとしなかった。


そんなある朝、武造が朝ごはんに来ないので部屋に見に行くといなかった・・

庭にも近所をあたっても武造はいなかった・・・。

そこへ近所の人がきて言った
「オメーんとこの武造が駅の方に向かって歩いとったぞ。どこさ行くんだべ?」

関衛門が言った
「武造が駅に?何でまた・・・?もしかすると・・・」

関衛門はすぐに、武造が汽車に乗って埼玉にいくつもりだと悟った

関衛門とヨネは、慌てて駅に走り出した。

それを見た近所の人も、どうしたんだろうと思い一緒に走りだした。

「ハーハー」息切れしながら駅に着くと、武造が一人で“ぽつん”と座っていた。

(武造は、一人で汽車に乗ったことがない)

「帰るぞ」と関衛門が武造の手をとる・・

武造は手紙を見せ、自分はこれから埼玉に行くとうったえた。

もちろん、それは関衛門たちからしたら許されることではない。

どうしても埼玉に行ったらいけないと言い、家に連れ帰った。

マツは、関衛門たちに連れ戻されてくる武造を家の中から見ていた。

マツは武造が、手紙を肌身離さず持ち歩き、表情もぽ〜としているのを見て・・・不愉快な思いをしていた・・・

しかし、マツは辛抱強かった・・・武造にきつくあたることをしなかった。

(今までの武造と違う・・武造はオラのことを好いてるだー、なのに何であの手紙を捨てようとしないんだべ・・?しかも、もしかしたら、今度は埼玉にいくつもりだったんでねーべか・・?)

これまでは、ある程度は武造のことを知っているつもりだった。

(今の武造・・何を考えてるか分からねー・・・、オラとの結婚をどう思っているんだべ・・?)

マツの気持ちが揺らいできた・・・

ラベル:肌身離さず
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2011年07月21日

突然のプロポーズ 第88回

軍事教練で一糸乱れず動いた「ろうあ者」の武造のことを、すっかり感心した陸軍将校。

それから数日たったころ、新聞をかかえた近所の人が、関衛門の家にやってきた。

近所の人が言った
「武造のことが新聞に載ってるぞー」

関衛門が言った
「新聞に?武造が・・?何だべ?」

近所の人が、関衛門に新聞を見せて言った
「ここを見てけろ!この前の軍事教練のことが載ってるんだが、その時の武造のことが出てるぞ!」

関衛門は、新聞を受け取り、
「どれ!見せてけろ!」と言い、新聞を読み始めた。

その新聞は全国新聞で上長井村での軍事教練のことが書かれていた。

将校の話では、【軍事教練に武造という「ろうあ者」が一人、訓練に参加してたが、皆と一緒に「一糸乱れず」指揮どうりに行動したことに非常に感動した!】と述べられていた!!

さらに、将校の話では軍事教練の前に上長井村の村長から「ろうあ者」が、この中にいることを伝えられていたが、最後まで「それが、誰なのか」分らなかったと述べられていた。

新聞を読んだ関衛門は、1人息子の武造が、将校に感動を与え、新聞にも載せられたことがうれしくなり武造を呼んだ。

武造に新聞を見せながら言った
「武造、オメーのことが全国新聞に載ってるぞ!将校が、オメーにとても感心したようだぞ!」

武造は、新聞に目をとめ自分の名前が載っていることが分り、嬉しくなり新聞をマツのところに持って行った。

マツは、将校が武造を褒めていること、そして、新聞に載った武造と結婚することで嬉しく、武造を誇らしく思った。


ところが・・・、

数日して上長井村の村長が、風呂敷包みを抱えて関衛門の家を訪ねてきた。

村長に関衛門が言った
「何かあったんだべか?」

村長は風呂敷包みを玄関に置き、
「役場に武造宛ての手紙がたくさん届いたぞ!ほれ!見てみろ!」と言って、風呂敷包みを解いて見せた。

風呂敷には、武造宛てのたくさんの手紙が入っていた。

関衛門が妙に思いながら・・
「何だべ?」

村長が関衛門に言った
「この前、武造のことが全国新聞に載ってたべー、その記事を見て感心した人たちからの手紙ではねーかー?開けてみてみろ!」

関衛門は、武造を呼び
「オメーに手紙が来てるぞ!」と手振りで教えた。

武造は、何のことだかよく分らず、関衛門に読んでみるように言った(身ぶり)。

差出人には、東京や埼玉などからの手紙もあった。

「軍事教練で、耳が聞こえないのに皆と一糸乱れずに指揮に従って行動したことに感動した!」ことなどが書かれていた。

女性からの手紙も多くあり、関衛門は、埼玉県からの女性の手紙を開いて読み始めた・・・


関衛門はびっくりしたような顔をして、すぐに読むのを止めた!

村長が言った
「どうしたんだべ?」

関衛門がこたえて言った
「これ、恋文ではねーかー・・?」

そばで聞いていたヨネが言った
「恋文?続きを読んでみてけろ」

関衛門は続きを読んだ
「武造様、軍事教練のことを新聞で知り、とても感動いたしました!武造様、私は、あなたのような人と結婚したいと願っております。私と結婚していただけないでしょうか。」

ヨネは驚きながら言った
「それは、結婚の申し出ではねーか!」

そして、関衛門、ヨネ、村長は同時に武造を見た!

びっくりした顔をした3人が自分を見たことで、武造の好奇心をくすぐった。

手紙に何が書いてあるのかと思い、関衛門の手から手紙を受け取った。

武造は、ひらがなは分からなかったが、漢字は理解出来た。
(漢字には意味があるので理解したのでは?)

手紙の差出人は埼玉の女性で、埼玉が天皇陛下のいる東京の近くだと分かった。

そして、手紙の内容に目をやると自分の名前と結婚という文字が気になり、どういうことかを関衛門にきいた。

関衛門は、身振り手振りで、この女性が武造と結婚したがっていることを教えた。

突然のプロポーズに驚いた武造。

武造にとって、生まれて初めてもらったラブレターで、しかもいきなりプロポーズだった!!

posted by junko at 14:49| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年07月15日

軍事教練 第87回

時は昭和に突入!
軍国主義が強まっていた日本は、軍事教練を行っていた。

武造とマツの住んでいた上長井村においても、陸軍将校が来て「軍事教練」が行われることになった。

みな広場に集まり、陸軍将校のもとで戦争に備えて訓練を受けた。

関衛門が武造に言った(身ぶり)
「オメーも訓練を受けてくるんだ。」

そう言って武造も軍事教練にいく様に促した。

耳が聞こえない武造は、関衛門が参加するよう促すので行くことにした。

村の広場には、村の大勢の人が集まっていて、軍服を着た偉そうな人もいた。

上長井村の村長が、武造を見かけて言った
「武造、オメーも来たんかー!耳が聞こえんのによく来たなー、がんばれよ!」

村長は武造の肩を“ポン、ポン”と軽くたたいて励ました。

武造は、「軍事教練」に参加することで村の一番偉い人から褒められたので嬉しくなった。

気分を良くした武造は、皆の様子を見ながら自分も中に入った。


上長井村の村長が、りっぱな髭の将校に近づいて言った
「今日は、ご苦労様です! 村の若者たちを集合させましたので訓練をよろしくお願いします!実はこの若者たちの中に、一人「ろうあ者」がいますのでご指導をよろしくお願いします!」


将校が言った
「ほほう・・ろうあ者がなー」

そう言いながらもその「ろうあ者」が誰なのかを村長に聞こうとしなかった。

なぜなら、将校は耳が聞こえない「ろうあ者」が、皆と一緒には同じ行動はできないだろうと思い、きっと、一人だけ乱れると思っていた。

いよいよ「軍事教練」が始まり、

将校が大きな声で言った
「一同、気を付け!」

その声に合わせて、皆が一斉に直立不動の姿勢をとった。

将校は、皆を鋭い目でじっとみた・・・将校は分からなかった・・誰が「ろうあ者」なのかを。

将校は続けて言った
「“右向け右”“左向け左”」

その声にしたがって、皆がいっせいに動く。

武造も皆の中にいて皆と同じように動いた。


勘の良い武造は、驚くことにほんの少しの乱れもなく皆とぴったり合わせて動いた。

耳が聞こえないとは信じられないほどだった!


陸軍将校が村長に聞いた
「本当にこの大勢の人の中に「ろうあ者」がいるのか?」

村長がこたえて言った
「はい、確かにこの中に一人「ろうあ者」がいます」

陸軍将校は、訓練中、誰がその「ろうあ者」なのかを、目を凝らして見ていたが、皆が寸分たがわず動くので「ろうあ者」が誰なのか分からなかった。

陸軍将校は村長に言った
「誰がろうあ者なのか?」

村長はそれが武造だと教えた。

陸軍将校は、武造に近づき本当に「ろうあ者」なのかを確かめた、そして本当に耳が聞こえないので驚嘆した。

将校は武造の肩を“ポン、ポン”と軽くたたき「オメーは耳が聞こえんのに偉いなー」と褒めた。

偉そうな将校に褒められたことで武造はまたも嬉しくなった!

ところが、この陸軍将校の武造に対する感心が、武造とマツの結婚話に波乱を生じさせることになった。

posted by junko at 17:08| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年07月10日

結婚を決意するマツ 第86回

関衛門とヨネは、武造にマツとの結婚式について話した。

武造にとってマツは、かわいい妹のようだったため結婚相手として“ピン”とこなかったようだったが、親が決めたということですぐに受け入れた。

それから、武造もマツも互いに対して結婚相手として特別な感情を抱きはじめるようになった。

関衛門とヨネは、二人の結婚式に向けて日時などの準備を始めることにした。

武造とマツが結婚する!そのことは、すぐに村人にも知られた。

行商で出かけていたマツに吾介が会い、吾介がマツに言った
「マツ、オメー本当に武造と結婚するんだか?」

心を決めていたマツは、迷いもなくこたえた
「んだ、オラは武造と結婚することにしたんだ」

吾介が言った
「オメー、親が決めたことだから仕方なく武造と結婚することにしたんだかー?」

それに対してマツが言った
「そうではねー、初めは親が決めたことだからという気持ちもあったけど、今はそうではねー、自分で決めたことだー」

それに対して吾介はなおもマツにいった
「オメー、耳の聞こえねーもんと結婚すると生涯苦労するぞ!この前の祭りのときのことも知ってるべー、武造は村の人たちから受け入れてもらえてねーだー、んだから、耳きんかと結婚するとオメーも生涯、そんな目で見られるだー」

その言葉にマツは“ぐっ”ときた

(耳きんかと言うでねー)

けれど、マツは吾介の言うとおりに、初めは自分もそのことを心配に思っていた。

今まで兄のように慕っていた武造が、村人たちの偏見でがっかりしている様子を見、自分が結婚してあげないと武造は誰とも結婚できない、と思って心を決めたマツ。


マツが言った
「オラ、武造と結婚することに決めただー」

   ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

その頃、日本は軍国主義が強まっていた。

「軍事教練」があり、それがきっかけで武造とマツの結婚話に大きな波乱が起きた。

posted by junko at 09:44| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年07月08日

よそ者 第85回

すっかり元気をなくしてしまった武造・・。

祭りの場で大きなショックを受けて帰ってきた武造を見てマツは心が痛んだ。

なんとか武造を励まそうとした
「神様はけっして武造のことを嫌ってはいない!!」と身振り手振りで話すマツ。

武造は、それでも意気消沈して元気が出なかった・・。

マツは、関衛門が村人たちにうまく話して、武造も「みこし」を担ぐのに参加させてもらえると期待しながら関衛門の帰りを待った。

一方、関衛門は村人たちに何故、武造を「みこし」を担ぐことに加わらせてもらえないかを聞いた。

関衛門が言った
「オラんとこの武造は、もう一人前の男になったのに何故「みこし」を担ぐことに加えてもらえねーだ?」


それに対して村人たちは、武造を参加させれないことは当然のように言った
「みこし」を担ぐには、五体満足の健康な男だけだず」

関衛門は、耳が聞こえない人に対する偏見は良くないことを訴えて言った
「武造は耳が聞こえねーけど、皆と同じりっぱな人間だ、オメーたちは、武造が「みこし」を担ぐと神様から罰があたると思っているようだなー、それは、絶対に違うべずー!神様は人を平等に見てくれるはずだず!!」

村人たちは、聞く耳を持とうとせずに言った
「オメーが何と言っても武造には「みこし」を担がせねーだ、それに、担がせねー理由は他にもあるんだ」


関衛門は、すぐに他の理由が分かった。

《関衛門の家族は、武造が耳が聞こえなくなった(豆事件)後に、この村(上長井村の遠田)に引っ越してきて、それからは、ずっと村人からは「よそ者」として見られていた》


村人が言った
「みこしは、元々この村で生まれ育った者だけが担ぐことができるんだ」


実際に、関衛門はこの村に来てから「みこし」を担ぐことに参加したことはなかった。

関衛門は、よそ者として見られるのは自分の世代だけにしてほしいと願っていた・・

村人たちの偏見の根深さにガッカリした関衛門は、村人たちに言った
「確かに、オメーたちからしたら、オラたちはよそ者だ、んだけど、オラたちはこの村に来て長く住んでるんだ、武造は、赤ん坊のときからこの村で育ってきた、他の村のことは知らねーだ、だから武造は、この遠田の人間でよそ者ではねーだ!」


関衛門の必死な訴えにも村人たちは冷ややかだった・・

村人たちは、口をそろえて言った
「武造が「みこし」を担ぐことはできねーだ」


関衛門は、ガッカリして帰っていった・・。


マツは、関衛門の話を聞き武造がますますかわいそうになった・・・

耳が聞こえないという偏見だけでなく、よそ者として偏った見方をされている・・

村人から受け入れられない武造・・。


(やっぱり、武造は自分が結婚してあげないと誰とも結婚できない)

武造との結婚を前向きに考え始めたマツ。

ところがこの後、武造とマツの結婚式へと物事が順調に進むかと思ったが・・・

事態は思わぬ方向に動いていった・・。
posted by junko at 10:41| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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