「武造とマツの物語(新)」

【小説】 身体障害者に理解がない時代にマツは、幼少のとき親同士で決め

た「ろうあ者」との結婚のため養女にいく。偏見や逆境に遭いながらも前向きに生きていく。



2011年09月16日

家系の存続を期待して・・ 第101回

「武造たちに子供ができたら、この家では狭い・・それだけではねー、この村に自分たちの持ち家があると、きっと村の人たちもオラたちをこの村の地元の人として受け入れてくれるんではねーべか・・?」と関衛門が言った。

それに対してヨネが言った
「んだなー・・」

関衛門がさらに言った
「持ち家があるからといってすぐには、村人たちの偏見はなくならねーかもしれない・・・んでも、オラたちの後々の子孫の時代になると、きっとオラたちの家系を“よそ者”として偏った見方はしなくなるんではねーべか・・?」

それに対してヨネが言った
「んだなー・・オメーの言うとおりかもしれねーなー」

それから、関衛門とヨネは空き家を探すことを始めた。


ある日、

関衛門が声をはずませながらヨネに言った
「隣の村だけど、家を売ってもえぇーと言う人がおったど!!それが、広くて立派な家だー、建てて100年ぐらいは経っておるけど使ってる材料も立派なもんだー、襖や欄間もすごく立派なもんだ!広さは80坪はあるどー!!」


ヨネがこたえて言った
「そんな立派な家を売ってもいいとは、何でまた・・?」

関衛門が言った
「その家の人は、とても金に困っておるんだと!!どうしても金が必要で家を売る気になったそうだ」

それに対してヨネが不安そうに言った
「んだけど・・・隣の村だと・・・・オラたち、また引っ越すことになるべー、また、その村で一から「よそ者」としてやっていかなければならねーず・・・」

関衛門が言った
「その家の場所から、ここまでは、だいたい2kmぐらいだ、曳家(ひきや)を頼んでこの場所に家を持ってきてもらうのはどうだべ・・?」

ヨネが言った
「んだなー・・それがえぇー!!雪が固まる3月ぐらいだと運びやすいなー、だとすると来年だなー・・」


マツは関衛門とヨネの話を脇で聞いていた・・・

オラたちの子孫のために・・・

家系の存続・・・関衛門たちが自分たちに大きな期待を抱いていることを改めて感じた・・・。

マツは複雑な気持ちだった・・・

まだ癒えていない心の傷のために・・・


関衛門が隣村から家を買うということが、たちまち村中に知れ渡った。

興味津々の村人たちが言った
「家を引いて持ってくるときは、オラたちも手伝うからな」

「隣村の何処の家だ?」

「あの家は、隣村でも1,2を争うりっぱな家でねーか!それを関衛門、オメーが買うんだかー・・」

村の人たちは、関衛門たちが曳家(ひきや)を頼んで、引いて持ってくる立派な家に興味津津だった!


<その年の冬は寒くて雪がいっぱい降った、豪雪地帯の冬らしい雪だった>


田んぼと道の境が分からないほどの大雪「銀世界」。

「3月になったら堅雪になるべー、家を引いてくるには十分の雪が降ったなー」

「んだー、良かったずー」

外を眺めながら、関衛門とヨネは家を買うことに胸を弾ませた。


マツも外の銀世界を眺めていたが、突然、体に異変を感じた・・・・。

posted by junko at 10:42| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年09月14日

「サバ缶とタケノコ」の煮物 第100回

熱が下がり、目を開けたマツを見た武造は、嬉しく感極まって涙を流した・・

マツが死んでしまうのではないかと思ったのである・・

ヨネがマツに聞いた
「マツ、何か食いてーものはねーか?」

マツは小さな声でこたえた
「サバ缶を・・食いてーだ・・」

早速、ヨネは料理にとりかかった。

作り終え、ヨネが言った
「マツ、オメーの大好きなサバ缶とタケノコの煮物だ、好きなものを食って元気になってけろ」

武造は身を起こしたマツの手を引いてゆっくり食卓につれていった・・

ご飯、サバ缶とタケノコの煮物、味噌汁、漬物の芳しい匂いが食欲をそそる・・

武造は、マツが食べ始めるまで自分は食べようとせず、マツの様子を見ていた。

サバ缶とタケノコの煮物を美味しそうに食べるマツを見て武造はうれしくなり、
「これも食ってけろ!」と自分の分の煮物もマツに差し出した。

それを見て関衛門が武造に言った
「マツは熱が下がったばかりではねーか!そんなに食えるわけねーベー・・」

ところが・・

「とっても旨いっちゃー! それももらうべー♪」
そう言ってマツは、武造の皿を受け取り美味しそうに食べた。

好物を食べてマツの体に生気が出てきた。


じっとマツの様子を見ていた武造は、走っていって櫛を持ってきた。

そして、マツの髪の毛をそっと優しく梳き始めた。

じっとしているマツ・・。


(武造・・・)

あれほどショックを受け、武造への怒りが大きかったのに・・・・・

絶対、武造を許すことは出来ない・・・そう思っていたのに・・・・・

それが今では・・

それほどまでには武造への怒りが大きくない自分に気が付いた・・・。


関衛門とヨネは、マツの髪を梳いてる武造、そしてじっとしているマツの様子を見て少しほっとした・・・

関衛門がヨネに言った
「ヨネ、武造とマツも結婚した・・オラたちの家系もこれで途絶えることはねー・・・オラたちの家系は代々と続いていくんだ! んで、これから武造たちに子供が出来ることを考えて・・・もっと広い家を買いたいと考えてるんだが、オメーはそれをどう思うだかー?}

ヨネが言った
「んだなー・・・・」

posted by junko at 15:41| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年09月12日

マツの涙 第99回

自分の手の上に置かれた武造の手・・・

マツはそれを払うことをしなかった・・

(オラ・・けっして武造を嫌いではない・・・けど・・)

マツは、自分の気持ちを処理できなかった・・

涙が出てきた・・

自分の手の上にある武造の手にマツの涙がポタポタと落ち・・・
マツの小さな肩は震えていた・・

武造は、自分の胸にマツの頭を優しく抱え込み・・
そのまま時間が過ぎていった・・

少し落ち着いたマツは、布団に横になった・・

マツの気持ちを考えたのか・・武造はマツの布団に入ろうとはしなかった・・

並べてある自分の布団に入り・・ただ、マツの手を握っていた・・


マツは、布団の中でもただただ泣いていた・・・


マツがようやく眠りに入ったかと思うその時、ヨネの声がした
「武造、マツ、4時になったから起きてけろ!」

(体がだるい・・なんだか・・体が変だ・・)

重い鉛を背負ったように感じるマツは、ヨネに言われたとおり起き、武造をも起こした。

ヨネが言った
「マツ、武造と2人で山に行って馬の餌を取りにいってけろ、オラは畑に行ってくるべず」

まだ日が昇る前の時間、あたりは暗い・・・
武造とマツは山に行く準備を済ませ出かけて行く・・。


武造が馬の手綱を引き、無言のまま2人で山に向かう・・・

夜明けの陽が2人の歩く道を照らしはじめると、薄っすら視界が見やすくなってくる。

馬が好む青草があると立ち止り、その草を刈っていく。

山道を歩くマツの足には力が入らなかった・・
マツは自分の内に力がなくなっていくのを感じた・・・

(だるい・・体のあちこちが痛い・・)


マツが気がついた時には、布団に寝かされていた。

マツは山で馬の餌を取りながら高熱を出し意識を失い、武造がマツを馬に乗せ家に帰ってきた。

そして、武造はマツの額に冷たいタオルを置いて看病していた。

マツの熱を下げるために夜昼、看病する武造。

ヨネが自分が代わるといっても武造は聞き入れようとしなかった・・・
武造はマツのもとから離れようとしなかった・・

往診で診てくれた医者は言った
「疲れがたまって風邪をひいたんでしょう!」と。

マツの熱は3日ほど下がらなかった。

高熱を出してから4日目の朝方に、マツの熱も峠を越し・・熱が下がり始めた。

マツは目を開けた・・


熱が下がり目を開けたマツを見た武造の目には、涙がにじんでいた・・・。

(武造・・)

ラベル:マツの涙
posted by junko at 15:05| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年09月10日

実家に帰りたい・・ 第98回

(実家に帰りたい・・こんな気持ちのまま武造と夫婦になってしまうんか・・・オラの人生は何なんだ・・・)

部屋の入り口で立ち止まったまま動こうとしないマツ・・

その後ろで武造はただマツをじっと見ていた・・

(実家に帰りたい!)という思いがマツのうちで強くなり後ろを振り向く・・


突然に後ろを振り向いたマツにびっくりした武造は、慌ててうつむき・・そして上目でちらちらとマツを見た・・

そんな武造を見たマツはまたもや(ハァー)とため息をついた・・

マツは武造のそばを通り過ぎ玄関にゆっくり歩き始めた。

武造はただ・・マツを目で追っていた・・・


マツが玄関から出ようとした時、ヨネがマツの気持ちを感じ取って出てきた。

ヨネが言った
「マツ、こんな夜に何処さ行くだかー?明日も4時に起きて山に馬の餌をとりにいくべー、さぁー、部屋に帰って早く寝ろ!」

動こうとしないマツ・・・

ヨネが続けて言った
「マツ、オメーの気持ちはよー分かるだー、武造のしたことがオメーの中で許せねーんだべ・・けど、オメーはもう武造の嫁になったんだ、そしてこの家を継ぐことになったんだ」


関衛門も部屋から出てきた

マツの表情がすっかり沈んでいるのを見てとり・・

関衛門が言った
「マツ、武造を許してやってくれねーか・・あれがしたことは親のオラたちにも責任があることだ、このとおり、申し訳ねーだ」

関衛門は頭を下げた。

それを見て、ヨネも「申し訳なかったずー」とマツに頭を下げた。


関衛門とヨネが武造のことで自分に頭を下げて謝ったのでマツは戸惑った・・

養女に来てから、2人に頭を下げられたことがなかった・・・

まして、マツにとってはヨネは怖い存在だった・・・
そのヨネが今、目の前で自分に謝り頭を下げているのである・・


二人をじっと見て立ちすくんでいるマツ。

「来てけろ!」と関衛門がマツを武造のところに連れて行った。

離れたところでじっと見ていた武造のところに来ると、関衛門は武造にマツに謝るようにうながす。

武造を見る強い視線の関衛門。

武造は、マツに視線をずらすと・・頭を下げた。

関衛門が言った
「このとおり武造も謝ってるだー、許してやってくれねーか・・」

(・・・・・)

マツの実家に帰る勢いは弱まり、「今日はもう寝る・・」・・・
そう言ってマツは自分の部屋に入っていった。

「オメーも入って寝ろ!」と武造に言う関衛門。

武造も自分たちの部屋に入ると、そっと部屋の襖を閉めるヨネ・・。


(体がだるい・・疲れたー・・・)

薄暗い部屋の中に敷かれた布団の上に、あまりの疲れで力なく座ったマツ・・ 

呆然として、そのまま動かないマツ・・・・

立ったままで・・じっとマツを見つめる武造・・。

武造がこれまで見たことのない・・・失意で打ちのめされたようなマツの表情・・・


武造にとってマツは、妹のように可愛く大事に思ってきた・・・・そのマツを自分がどれほどつらい目にあわせてしまったのか・・・・・

武造は自分の愚かさに気が付き、なんとかマツをなだめようとした・・・

少しずつマツに近づき、マツのそばで腰をおろした・・

言葉を言い表すことが出来ず、話が出来ない武造は、そっとマツの手に触れる・・

ただ一点を見たまま動かず、武造を見ようとしないマツ・・


武造は、マツの手の上に自分の手を置き・・頭を下げ・・・

しばらくの間・・そのままの状態が続いた・・・

ラベル:実家 帰りたい
posted by junko at 16:09| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年09月07日

結婚式3日目のおもてなし 第97回

部屋の片隅に座り込んでいるマツを武造は、じっと見ていた・・。

「オラを見るでねぇー」

武造が、じっと自分を見ているのにも怒りを感じるマツ・・

並べてあった布団を大きく引き離し、武造が近づかないようににらみつけるマツ・・。

前日寝てないのと結婚式のもてなしのために疲れていたマツの体は、ズッシリと重い荷がのしかかっているかのようだった・・。

とうとう、あまりの疲れで布団に入り横になった・・。

明日、結婚式3日目のおもてなしのために翌朝4時に起きなければならない。

(結婚式で花婿に逃げられた花嫁が・・なぜ、もてなしをしないといけないんだ・・・)

マツは自分の人生を嘆いた・・・

・・・養女として気を使いながら暮らしてきて、親同士が決めた武造との結婚もようやく納得し、耳が聞こえないろうあ者と夫婦になることを決意した自分・・・

武造は自分を決して嫌っていない・・・なのに・・・なぜ?・・・逃げた・・・なぜ?・・

きっと村の人たちには自分が哀れに映っているだろう・・・うわさになっているに違いない・・・

花婿に逃げられて花婿代理で式を挙げた花嫁・・・・あぁー・・こんなことって・・・・

なのに・・また明日、村中のお年寄りのおもてなしをしなければならない・・・


マツの体はズッシリ重くなり眠りを要求しているなかで、神経だけが目覚めたかのように様々な思いが浮かんでは消えてゆき・・夜の静寂な空間の中で、自分の考えだけがざわめいているかのようだった・・。

そうしているうちに、一時の間、深い眠りがマツを襲い、気が付いたらヨネの声が聞こえた。

朝4時はたちまちきた・・。


マツは疲れてる体を起こし、結婚式3日目のお餅を作る。


※上長井村では、結婚式3日目として村中の各家からお年寄りが集まり、結婚した2人を祝福する習慣があった。


続々と村中のお年寄りが集まり、家の中はお年寄りでいっぱいになった。


マツはお餅をお年寄りそれぞれに配りおもてなしをする。

お年寄りはマツを気の毒に思い、慰めたり励ましたりしてくれた。
「マツ、つらかったべー・・よく耐えたなー、えらいなー」


一方、武造には厳しく、怒る年寄りもいる。
「武造、オメーは、式ではひでぇーことしたもんだなー、人生の大事な時になんてーことしただー」

「武造、オメーはマツに一生負い目があるどー」


耳の聞こえない武造は、お年寄りが自分をしきりに怒っていることをヒシヒシと感じながら・・

マツに目を向けた・・

けっして自分と目を合わせようとしないマツ・・。

新婚の2人がギクシャクした中、結婚式3日目も終わった・・・


つらい中、花嫁としてしっかり上長井村の習慣どおり結婚式3日間を終えたマツ・・・

そのマツにヨネが言った
「マツ、疲れたベー、オメーたちももう寝ろ、明日も早いどー、4時に山に行くからな!」

「はよー寝ろ」とヨネに言われて、マツは疲れて重くなった体を引きずり・・・自分たちの部屋に向かった・・・

その後を武造がマツの顔色をうかがいながらついてくる・・・

自分を見ようとしないマツ・・・自分への怒りが相当なものであることをひしひしと感じながら・・


部屋の入り口で立ち止り・・ハァーと深いため息をつくマツ・・

(実家に帰りたい・・)

ラベル:結婚式 もてなし
posted by junko at 15:35| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。