「武造とマツの物語(新)」

【小説】 身体障害者に理解がない時代にマツは、幼少のとき親同士で決め

た「ろうあ者」との結婚のため養女にいく。偏見や逆境に遭いながらも前向きに生きていく。



2011年10月31日

欄間だけは取り返したい・・第108回

(小吉が・・欄間泥棒か・・・)

マツはお客さんたちが店から出た後、大島家の女将に「雪菜」を売ってからすぐに家に帰った。

ソリに積んで持っていった雪菜が完売した嬉しさよりも、欄間についてのお客さんたちの話が気になって仕方がない・・

マツが帰ると武造が走り寄ってきて、両手でマツの赤らんだ手を覆い温めた。

「雪菜は売れたかー?」とヨネが来た・・

雪菜が全部売れてたのを見たヨネは大喜びだった。

マツは、ヨネから売上金をチェックされるのを忘れるほど欄間のことが気になり、

「あの・・オラ、大島家で聞いたんだけど、お客さんたちが話してたんだ・・もしかしたら欄間を盗んだのは小吉かもしれねぇー・・・」

それを聞いたヨネは、売上金をチェックするのを忘れ興奮気味にマツに言った
「小吉が・・?マツ、早く家の中に入ってその話をしてけろ!」


マツは大島家で聞いたことを関衛門とヨネに話した

マツの話をじっくりと聞いていた関衛門はしばらく沈黙し・・

「せめて欄間だけは・・・取り返したい・・・これから小吉の家に行ってくる」と言い、出かけて行った。


小吉の家は、廃材を使って建てたかのような古くて隙間だらけの家だった。

その家に欄間だけが立派で、どう見ても新しく入れた欄間はこの家にはもったいないものに見えた。


関衛門の突然の訪問に、小吉は少々戸惑いながら言った
「オラの家に何のようだ!」

小吉の表情と声の調子を敏感に感じ取った関衛門は、
(やはり小吉が欄間を盗んだんだ)と確信した。

それでも、関衛門は穏やかな表情をくずさずに言った
「オメーも知ってるとおり三月に入ったらオラの家は引っ越しする予定だ、曳家(ひきや)も頼んであるが、引いてくるにはたくさんの人の力が必要だ、それで、オメーもその時、手伝ってくれねーか?」

と関衛門は小吉に引っ越しの手伝いを頼んだ。

小吉は、欄間のことを聞かれなかったことで少し安心し言った
「もちろんだ!その時は手伝うつもりだ!・・」

それに対して関衛門が言った
「手伝ったお礼にちゃんと礼金は払うからな!」

礼金と聞いてますます気分を良くした小吉が言った
「引っ越しで困ったことがあったら言ってけろ!オラに出来ることは何でも手伝ってあげるから。」

関衛門が言った
「んだかー、それはありがてー・・」

そして、間を置いてからゆっくりした口調で言った
「ところでオメーに聞きてーことがあるが、オラの新しい家から襖や障子、それに欄間が盗まれていたんだ、オメーは何か聞いてねーかー?」


少したじろぎながら小吉は「なんも聞いてねー」と言った。

関衛門が言った
「んだかー、それは残念だ・・・あの欄間はオラもとっても気に入ってたもんで・・・」と肩を落とした。


関衛門はそれ以上話そうとはしなかった・・

そして言った
「んでは、引っ越しの時はよろしく頼むなー」

そういって関衛門は帰って行った。


関衛門が、欄間を取り返すことができなかったことで、武造は落ち着かなくなった。

そして、人差し指を曲げて「泥棒」といった。


武造は、しばらくウロウロしながら、何か思いついたような顔をして、自分が小吉の家に行ってくると言いだし、ソリを引いて小吉の家に向かった。

「オラも武造と一緒に行ってくる・・」とマツが言った。


(マツなら武造をうまく手助けして欄間を取り返せることができるかもしれない・・)と考えた関衛門は、

「マツ、くれぐれも小吉の気持ちを堅くさせんようにしてけろな!」と言って、少しの雪菜を持たせた。

マツは、ソリを引いてる武造の後ろ姿をみながら様々な場面を想像した・・

(武造はソリを持っていくほどだから、絶対に欄間を取りかえすつもりだ・・もしかしたら・・・力づくで取りかえすつもりだべか・・・?)

武造は、何かを考えているような真剣な表情をしてソリを引いていた・・

そして2人は、小吉の家にたどり着いた・・

ラベル:欄間
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2011年10月29日

欄間を盗んだ犯人!?第107回

「寒さもだいぶ和らいできたから、そろそろ行商で雪菜を売ってくるべー」

関衛門が言った
「マツ、オメーは大事な体だ、寒さも和らいだといってもまだまだ寒い、オメーの体にもしもの事があったらいけねー!来月の始めから引っ越しするから、引っ越しが終わって落ち着いてから行商に行ったらえぇ!」

マツがこたえて言った
「んだか・・・でも、少しでも家計の助けになりてーだ!!」


いままでマツは、行商という仕事が好きではなかったが、関衛門の子孫に対する熱い思いを知り、少しでも金を稼いでこようと思った。


それに、ヨネに行商の売上を毎回チェックされることから、売らないと家に帰れないという重圧を感じていた。


マツは、その好きになれなかった行商の仕事を自分からしようと思うようになった。

マツが関衛門に言った
「大丈夫だ!!何件かお得意さんがおるから、そこに行って雪菜を売ってくるだー」


しかしマツの身を気遣う関衛門は渋り、
「行商はもっと暖かくなってからでいいべー」

それを聞いてヨネが言った
「行かしたらえぇーではねーか、実際にこれからは、オラたちの家系も今までのようにはいかねー、マツが行商で少しでも金を稼いできたら助かるではねーか、マツ、体を冷やさんようにしっかり厚着してけろ!オラは雪菜を掘り出してくるべー、今年は雪がいっぱい降ったから雪菜もいい出来だず!」

そう言ってヨネは、雪の下で育った雪菜を掘り出しに行った。


マツが行商の支度をしてると、武造が「そり」を持ってきて、雪菜をその上に載せた。

マツの身が心配になった武造は、マツと一緒に行商に自分も行くと言った。

「一人でも大丈夫だ!」とマツ。


関衛門が言った
「マツ、雪で滑らねーように、注意して歩いて行ってけろ!」

マツは滑らないように注意しながら歩き、お得意さんの家を回った。

「雪菜ではねーか!これ、旨めーよなー♪」

そう言って行商先のお得意さんは、どこも皆雪菜を買ってくれた。


そして最後に一番のお得意さんである大島家「お菓子屋」に行った。

お店に入ろうとしたら、店の中には村の奥さんたちが買い物をしていた。


(お客さんたちが帰るまでここにいよう・・)


マツは、店の入り口でお客さんたちが帰るのを待つことにした。


店の中から、話し声が聞こえてきた。

「この前、小吉の家に行ったら小吉が自慢げに欄間を見せてくれただー、立派な欄間で、びっくりしたず!」

「ほー、小吉の家がかー?どうして小吉の家がそんな立派な欄間を買えたんだべ!」

「オラもそれが気になって聞いてみたんだ・・・小吉は知り合いから譲ってもらったと言ったず」

「んだかー(そうかー)」


その会話に、店の入り口にいたマツの方が驚いた!!

(欄間を盗んだのは、小吉か・・?)

ラベル:欄間 犯人
posted by junko at 15:50| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年10月28日

子孫への思い 第106回

ヨネが愕然として言った
「欄間は無くなってるし・・襖も障子もぼろぼろではねーか・・・」

「誰がこんなことを・・・」

新しく購入した家から立派な欄間が盗られてなくなり、襖、障子も古くて変色し破れたものに入れ替えられたことを知った関衛門とヨネは、戸惑いと落胆を隠しきれなかった。

『家を売ってくれた人に状況を話すと、誰かが家に入ったところを見てないし、何も知らないということだった。かえってこのようなことがあり、関衛門たちを気の毒に思ったようだった。その後、元の家主は長野県に引っ越した。』


関衛門とヨネは、足取り重く家に向かいながら、犯人が誰かいろいろと考えめぐらした。

落胆した表情で家に着いた。

関衛門とヨネの表情を敏感に感じ取った武造は、何があったかを尋ねた。

関衛門は武造に分かるように身ぶりで説明すると、何があったかを理解した武造は、人差し指を丸く曲げ(フック形)、そんなことをした人は、泥棒だ!といった。

《武造が、人差し指を丸く曲げる(フック形)ことは泥棒のことを表していた》

関衛門が言った
「誰かが、夜の間に自分の家の襖と障子を入れ替え、欄間をはずしていったんだ・・・もし、この村の人がやったとすると・・・・

オラたちは、この村で「よそ者」と見られてる・・慎重に行動しねーといけねー・・・・オラたちが家を買ったことをねたんだ村人が犯人にちがいねー」

それに対してヨネが力なくこたえた
「だったら、取りかえさねーだかー?オラたちは家を買って、そのために土地も買ったんだ、またこれから、田んぼも買わねーといけねー、いつまでも人から借りていてはいけねーからな・・・それで、蓄えはほとんど無くなる・・・新しく襖や障子、それに欄間を買う金はねーど・・」

関衛門が言った
「今は辛抱しなければならねー、感情的になって取り返しにいったら「よそ者」のオラたちは、この村でますます住みにくくなる・・・・

オラたちの時代ではここでは「よそ者」だが、この村にオラたちの家を持ち、オラたちの田んぼがあると・・きっと・そのうち、オラたちの後の代ではこの村の者、地元として受け入れられると思うんだ・・」

関衛門は自分たちの家系の存続と、子孫が村人の偏見に苦しまずに暮らせるように大金をはたいて家とそのための土地、そして田んぼを買うことにしたのだった。


マツは、話しを聞きながら、村人の偏見の根深さをますます感じていた。

(でも・・・誰が盗っていったんだべ・・・)


その犯人は意外なところで知ることになった・・
ラベル:子孫 思い
posted by junko at 14:37| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年10月26日

引っ越し前の落胆 第105回

豪雪地帯といわれるほど、上長井村のその年の冬は大雪になった。

道と田んぼの境が分からないほどの銀世界。

その雪が春に近づくにつれ、だんだん堅くなり始めた。


マツの妊娠と新しい家を引いて持ってくるという二つの嬉しいことで、関衛門とヨネの心は弾んでいた。

関衛門が声を弾ませてヨネに言った
「今年は雪もいっぱい降ったから、堅雪になると家を引きやすいなー、曳家(ひきや)にとってやりやすいべー」

ヨネがこたえて言った
「んだなー(そうねー)今年の雪は、引っ越しには最高だ!!そろそろ曳家(ひきや)に引っ越しのことで話しにいったらいいでねーべか?」

関衛門が言った
「オラが、曳家と話に行ってくるべからオメーは、マツの具合を見ててけろ、無理をして流れたりしたらいけねーからな!」

常にマツの身を気遣う関衛門。


一方、ねたみにかられた村人たちは、関衛門が立派な家を買って引いてくることを不愉快に思っていた。

特に、村人の吾一、庄助、小吉が中心になって関衛門の家に対して偏見をもち、よくないことを言いふらしていた。

その3人が会うと・・・

「そろそろ、関衛門は引っ越しでねーかー・・?」と吾一が話しを切り出し、

「んだ、よそ者がこの村で立派な家に住むなんて・・よそ者は小さいボロ屋で静かに暮らしていけばえぇんだ!」と庄助。

「んだんだ(そうだそうだ)、でも、家を引いてくることは止められねーべー」と小吉が続く・・・


悪知恵の働く吾一は、少し間を置いてから・ややニヤリとし・・

「・・・関衛門が引っ越しする前に・・・あの立派な襖や障子、それに欄間・・・それをもらうべー」

それに対して、庄助が間を置かずに言った
「貰うって? オメー、何を言うてるだー・・? 関衛門が承知するわけねーべー!」

何食わぬ顔で吾一がこたえて言った
「関衛門には黙ってもらうんだ」


「黙って・・・?ほんならオメーは・・・盗むってことか・・?」と庄助が、やや驚いたように聞くと、

「いや、盗むわけではねー、代わりにオラの家の襖と障子をはめておくんだ」と悪びれた様子も見せずに淡々と応える吾一。

「オメーの家の襖や障子は、かなり古いではねーか!関衛門にすぐに入れ替えたとばれるではねーか!」と庄助が少し戸惑いながら言うと、

「誰も見てねー時に、こっそり入れ替えたら、誰の仕業か分からねー、それに、関衛門はかなり金を持ってるべー、金があるなら、また新しい立派なものを買えるず!」と吾一は、金のある人からは勝手にもらっても構わないと言い張る態度。

「確かにそうだな・・・でも・・入れ替える・・それはやはり・・盗みになるんではねーかー・・・?そんなことしてえぇんだべか・・?」と庄助は少し後ろめたさを感じた・・・


「よそ者に大きい顔されて、オメーそれでもえぇんかー?」と強い口調の吾一に、


「いや、そんなことは許せねー・・・だったら、金のある人から少し恵んでもらったと思ったらえぇな!オラも何か貰うべ」と庄助は、吾一の考えにのった。


「そしたら、オメーは障子のほうを自分の家のものと入れ替えたらえぇ!オラは、襖と欄間をもらうべー」と吾一。


二人の話を聞いていた小吉が言った
「オラの家の欄間は壊れていてみっともねー、オラに欄間をくれてけろ」と少し遠慮ぎみに言うと・・

吾一が言った
「んだかー、あの欄間は立派なもんだず! オラも欲しいが・・オラの家のはまだ壊れてはねーからな、オメーが貰ってもえぇど、 えぇか、誰にも見られんようにして入れ替えるようにしてけろな」

小吉がうなずきながら言った
「オラんとこの欄間は壊れてガタガタだから入れ替えることは難しいず、貰うだけでいいべー・・新しく買う金もねー・・・・関衛門は金があるから恵んでもらうべ、欄間が無いとなるとまた立派な欄間を買うべー」と言い、小吉は盗みという罪を正当化した。


そんな企てのことを何も知らず関衛門は、曳家(ひきや)と引っ越しのことを打ち合わせに行っていた。

家を引いてくるのに、約2kmの道のりを移動させるということで、約1カ月をかけて引いてくることになった。


三月になった・・・引っ越しの日が近づき、関衛門はヨネと一緒に新しい家を見にいった。

その二人が、家の中に入って見て回ると・・・

愕然とした・・・

「襖と障子が・・・・」との関衛門に、

「欄間がねぇー(ない)・・」とヨネの大きな声が・・・。
posted by junko at 16:55| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年10月25日

村人たちのねたみ 第104回

武造の豆事件以来、ずっと苦労し、自分の家系の存続も難しいと思われていた関衛門。

武造の嫁にと頼みに頼み込み、やっとマツを養女に迎え、たどり着いた結婚式・・

それが、花婿の山への脱走により、一時はどうなるかと心配した関衛門。

それらを乗り越え、待望のマツの妊娠!!

関衛門の目にはうっすらと光るものがあった・・・


そのマツの妊娠は、すぐに村中に広まった。

「マツに赤ん坊ができたんだってなー」

「武造の子だな!結婚式ではマツにひでぇーことしながら、マツを身ごもらせるとは武造のやつ、ひでーやつだ!」

「マツはひでぇーとこに養女にいったもんだなー!」

「んだー(そうだー)、それにしても小さい時は、あんなに体が弱かった武造が、結婚して子供をもうけるとは・・・」

「マツが養女に行かなかったら武造は、誰とも結婚出来ねかったはずだ!!、マツは関衛門の家のために犠牲にされたよーなもんだず!!」

「関衛門は、うまく仕込んだもんだな!!」


「んだずー(そのとおりだ)・・・それに、関衛門はこの三月に大きい家を買ってここに引いて持ってくるそうじゃーねーか、よそ者のくせに生意気だず!」

「んだんだ(そうだそうだ)、あれほどの立派な家は、ここの村でも1,2件しかねーど!よそ者がこの村で立派な家に住んで大きい顔してええべかー?」 

「よそ者に大きな顔はさせねー」


村人たちは、関衛門に引っ越しの手伝いを申し出ながら、自分たちの間では、ねたみの感情を募らせていた。


「んでは(そうしたら)、どうするべずー?もうすぐ三月だ、堅雪になったら家を引いてくるべー・・」

「オメー、どんな家だか中も見てきたかー?」

「オラ、中に入って見てきたず、家ん中も立派なもんだー」

「オラも見てきたず、襖と障子も立派なもんだった、それに欄間も、あんな立派な欄間は、オラ初めて見たず・・」

「んだかー(そうかー)、そんな立派な家を買えるなんて関衛門は、よっぽど金があるんだな!」 

「よそ者のくせに、生意気だず!」


村人の間ではこのような話が盛んになされていた・・・。


関衛門は、自分たちが村人たちからねたまれてることを知らず、「家系の存続」ということが現実になってきたことで気分が高揚していた。

「マツ、サバ缶、いくらでも買ってやるからな!他にもオメーが食べたいと思うものは何でも言ってけろ!」

マツは関衛門が、心底「家系の存続」を期待し、願っていたことを改めて感じた。

(こんなにも腹ん中の赤ん坊が喜ばれてるだ、きっとこの家で大事に育てていける・・・)

ラベル:村人たち ねたみ
posted by junko at 16:38| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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