「武造とマツの物語(新)」

【小説】 身体障害者に理解がない時代にマツは、幼少のとき親同士で決め

た「ろうあ者」との結婚のため養女にいく。偏見や逆境に遭いながらも前向きに生きていく。



2011年11月29日

心の怪我 第123回

マツはうつむいたまま黙って聞いていた。

関衛門が言った
「けど、怪我は治らないわけではねー、時間はかかるが必ず治るものだ、愛情が少しずつ治してくれるだー」

(愛情・・・)

マツは、武造の自分を見る真っすぐで純真な目、そして、自分を気遣う行動が思い浮かんだ・・

(お父(とう)が言う通りだ、武造の目・・自分に対する気遣いで、オラ、確かに気持ちが軽くなっていく・・・)

関衛門が言った
「オメーは、人を憎むことをしねー、そして人の幸せを喜ぶ人だ!  オメーは、自分に怪我をさせた武造を憎まねーし、きつくあたることもしねー」

そう言う関衛門の言葉に、下駄屋の女将も同じことを言ったことをマツは思い出した。

関衛門は、さらに続けた。
「愛情というものは、培っていくもんだ、最初から完成された愛情はねーんだ、だから、結婚式がすべてではねー、結婚式の後からが大事なことなんだ」

(愛情は培っていくもの・・・)

マツは、下駄屋の女将が嫁に関して言ってたことを思い浮かべた・・・

(下駄屋の家は、仲が悪そーだったなー・・・女将は、悩んでたったなー・・・)


マツは、関衛門が言ってることを理解した。

マツが関衛門に言った
「オラ、武造を嫌いではねーし、武造が不幸になることも望んではいねーだ」

そのマツの言葉に関衛門は微笑み、
「武造は、オメーに悪いことをしてしまったが、結婚をする前より、今の方がずっとオメーのことを好いてるだー、オメーたちは、結婚の始まりは悪かったが、夫婦で愛情を培っていって幸せになったらえぇー」

(結婚式よりその後の方が大事・・・)

マツは、この関衛門との会話で、結婚式のことが少し小さな問題に見えてきたように感じた。

(心の怪我が、少し癒えたんだべか・・・?)
ラベル:心の怪我
posted by junko at 14:03| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年11月28日

結婚式は「始まり」にすぎない 第122回

マツの目に涙がぽろぽろととどめなく流れた・・・

関衛門が言った
「オメーの心に辛いことがあるんだべ?思いっきり泣いたらえぇ」

泣き続けるマツ・・・

そして、泣いてたマツが少し落ち着いてきた・・・

関衛門がマツに言った
「マツ、何があったんだかー?」

言葉に詰まって何も言えないマツ・・・

関衛門が言った
「オメーの心に何か辛いことがあるから涙が出てくるんではねーか・・?」

マツがまた涙を流しながら言った
「オラ、自分でもよく分からねーんだ、オラ、武造を嫌いではねー・・・でも・・」

関衛門は、マツの言葉ですぐに察しがついた。

「マツ、オメーがそのように涙する気持ちは自然なものだ、泣きたいときは思いっきり泣いたらえぇー、我慢してると体に良くねー」

その関衛門の言葉にマツは、安心したのかまた泣きだした・・・。


関衛門が言った
「オメーはまだ、結婚式の事が心の内で処理出来てるわけではねーんだ・・」

そう言って関衛門は間を置き・・

ゆっくり話しを続けた
「オメーたちの結婚式のことでは、オメーに辛い思いをさせて悪かった、ほんとに、すまねかった」


関衛門が自分の胸の内を理解してくれてることを感じたマツは、少し気持ちが軽くなったように思った。

関衛門が、穏やかに話しを続けた
「オラ、結婚式の日取りをもう少し先に延ばしたらよかったと悔んだんだ、武造もオメーを好いてたから、まさか、あのような事をするとは思わなかった・・武造は、あの時・・あの手紙に思いがくらまされていたんだなー・・・」

そして、関衛門は深く息をつき、それから話を続けた
「結婚式は、結婚のすべてではねー、「始まり」だ・・、オメーはその始まりで大きくつまずいてしまった・・・そのつまずきで心に怪我を負ってしまってるんだ、でも、治せる!!結婚式は「始まり」に過ぎねーからな。」

マツが言った
「結婚式は「始まり」に過ぎない・・?」


関衛門が言った
「んだ(そうだ)・・結婚式は始まりに過ぎねー、と言っても・・誰だって幸せな結婚式を挙げたいと思うものだ、けど、オメーはそう出来ねかった・・・結婚という新しい人生の一歩を踏み出すときにつまづき、心に怪我を負ってしまった・・」

(心に怪我を?)

ラベル:結婚式 始まり
posted by junko at 13:21| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年11月26日

平和を生み出す性質 第121回

下駄屋の女将がマツに言った
「オラの息子の嫁が今、実家に帰ってるんだ・・嫁は短気で、嫌なことがあったらすぐに怒って実家に帰ってしまうんだ・・・・」

女将は、嫁のことで思い悩んでいた。

女将は、マツをじっと見て話しを続けた
「マツ、オメーと武造の結婚式のことを言うと、オメーが辛くなるかもしれねーが、オラ、あの時オメーが気の毒でならなかった・・・正直なところ、オメーたちが、あのような結婚式の後、うまくやっていけるとは思わなかったんだ・・」

(オラたちの結婚式・・・)

マツは、黙って聞いていた・・


「オメーはあの後、じっと辛抱していたし、武造ともうまくやっている、それは、そう簡単に出来るもんではねー、オメーの人を憎まない、そして、人の良い点を見ようとする性質が平和を生み出すんだ!」


さらに、女将は話しを続けた
「最近、武造を見かけたが、幸せそうだった、オメーが結婚式のことで、武造にきつくあたっていないからだ、オラ、ほんとにオメーを嫁に欲しかったず・・」

女将の真剣な表情には、日頃、嫁との不仲の苦労が表れていた。


女将は「その、山菜もらうべー」と言い、籠に残っていたワラビとゼンマイを買ってくれ、籠は空っぽになった。


マツは、女将に褒められたことが嬉しい反面、複雑な気持ちがした。


(オラ、完全に武造を許しているんだろうか・・?)


マツは、自分の気持ちがはっきり分からなかった・・・

それでも、武造が純真な目で自分を見るときマツは感じることができた・・

(武造の真っすぐな目・・武造はオラを好いてるだー)

確かに、マツを見る武造は幸せそうだった。

武造のマツに対する気持ちは、その純真な目を通してマツに伝わり、マツは自尊心を取り戻していった。


しかし、自尊心を取り戻していっては、また・・・結婚式のことで辛い思いを感じるマツだった・・。


家に戻ったマツは、腰をおろし下駄屋の女将との話しを思い返していた。

時々、「はぁー」とため息をついてるマツに関衛門が気づいた。

マツの後ろ姿が、いつもと違うように感じた関衛門はマツに言った
「行商で何かあったんだかー?」

マツが黙っていると・・

関衛門が言った
「誰かに何かを言われたんだか?元気がねーではないか・・」

自分の気持ちの変化に気づいてくれた関衛門に、マツの心が開いた
「下駄屋の女将が・・オラのこと、褒めてくれたんだ・・・でも、オラ・・・」

そう言うと、マツは言葉に詰まり・・目に涙があふれてきた・・・

ラベル:平和 性質
posted by junko at 15:34| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年11月25日

鉄釜に焦げついたご飯 第120回

(もっとご飯、食いてーー)

ご飯のおかわりが出来ず、味噌汁と漬物だけでは満たされないマツは、養女に来て初めて「真っ白いご飯を腹いっぱい食べれない」ひもじさを感じた。

(米の収穫までの辛抱だ・・・)

そう思っても、今までご飯を腹いっぱい食べてたお腹はすぐには順応しない・・・

釜の中を見てもおかわりの分のご飯はない・・

武造、そして関衛門とヨネも、ただ黙って一杯限りのご飯、味噌汁と漬物を食べていた。

それぞれが、家の引っ越しをする前までは、予想していないことだった。


(オラ、ご飯が食いてー・・)

マツは、自然と空っぽの釜に目が向く・・


(あっ!♪ ご飯がある!!)

マツは、鉄釜の中にまだ食べれるご飯があることに気付いた!

薪で炊いた鉄釜のご飯は、しゃもじでは取れないほどに鉄釜に焦げついたのがある。

マツは、ペッタンコに焦げ付いたご飯が食べたくなる・・・

マツは、洗い場に釜を持っていき、釜の中に水を入れた。
しばらくすると、釜の内側に焦げ付いて堅くなっているご飯が柔らかくなる。

ご飯粒の形が全くない、くっ付いて“ぺったんこ”になったご飯を取り、そのようにして洗い場で食べた。

(ふっくらご飯ではねーけど、この焦げ付いた部分もけっこう旨いもんだ!♪)

今まで、ふっくらご飯を腹いっぱい食べて、釜の内側にこびりついたものには見向きもしなかったマツだったが、

焦げ付いたご飯を食べたい一心で、

(今度は、どんくらいくっ付いてるべか・・?)と釜の内側を見、鉄釜を洗うことが楽しみになった。


ヨネがマツに言った
「ワラビとゼンマイを売ってきてけろ」

ヨネは、毎日のように山に行き山菜を採ってくる。

その山菜をマツが、籠に入れて行商に出かける。

採れたての山菜は、よく売れた!!
売れて気分良くなっていたマツは、最後に下駄屋に入った。

「ワラビとゼンマイだ!近所の人たちも、この山菜を食べれることが嬉しいと言って買ってくれただー!残り少なくなっているけんど買ってくんねーか?」

下駄屋の女将は、マツを見て微笑み言った
「オメーは、えらいなー、オラ、オメーの事を感心してたんだー」

マツが言った
「オラのことが・・?」

下駄屋の女将がこたえて言った
「んだ、ほんとにオメーをオラの息子の嫁に欲しかったず・・」

そう言う女将は、何か煩っていそうな顔をしていた・・

[この下駄屋は、以前マツに嫁に来ないか?と誘った事がある家だった]

女将が言った
「マツ、誰もがオメーのような心を持っているわけではねー、オメーは辛抱強く気立てが良い」とマツを褒めた。

マツは、何かを煩っていそうな女将が、自分のことを褒めるのが気になり聞いてみた。

「何かあったんですか?」

ラベル:鉄釜 ご飯
posted by junko at 13:12| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年11月24日

新たな試練 第119回

(大きくて広い家だけど、柱磨きするところが多くなったず・・・)

マツはそう思いながら、大きな家の柱を眺めた・・

(柱磨き・・単調で退屈だ・・・)

そう思いながらも行商に行かない日は、柱磨きをする・・「くるみ油」での柱磨きはマツの仕事だった。

磨いた部分に“つやつや”と光沢がでてキレイになると満足感があった。

(この家は、オラたちの家だ!!生まれてくる子もこの家で育つんだ!オラが磨いたこの柱で、どんくらい背が伸びたか測るかもしれんなー♪)

生まれてくる子のために、家を大事にする意識が出てくる・・

そんなことを想像しながら柱を磨く・・・
すると自然とこの仕事も苦に感じなくなってくる。

単調で面白みのない柱磨きも、自分の見方を変えただけでやる気が出てくるマツだった。


(腹減ってきたなー・・)

そのころには、マツのつわりもおさまり食欲が出ていた。


一方、武造たちは、米作りの準備を始め、自分たちの家所有の田んぼでの米作りに精が出る。

一生懸命に働いてお腹がぺこぺこになった!

「ご飯の時間だ」とヨネの呼びかけに皆が食卓につく。

ヨネが言った
「皆、腹減ったべー、味噌汁おかわりして食べてけろ、でも、ご飯は節約しないといけねー、おかわりなしだ」

(えっ?おかわり出来ねーんだか・・?)

ご飯が大好きなマツにとって、これは一つの試練になった。

ヨネが言った
「引っ越しで予定していたより、金がかかってしまったんだ・・・だけど、米の収穫までは節約したらなんとか大丈夫だ」


(真っ白い、てんこ盛りのご飯が腹いっぱいに食べれる!♪)と聞いて、・・・それだけが魅力で養女に来たマツ・・・

養女に来てから、ご飯が食べれなくてひもじい思いをしたことは、一度もなかったマツ・・


そのマツが、ご飯を腹いっぱい食べることが出来ないという試練に直面した・・・。


(茶碗一杯だけじゃー足りねーず・・・ご飯、腹いっぱい食いてーー)


ラベル:新たな試練
posted by junko at 13:59| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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