「武造とマツの物語(新)」

【小説】 身体障害者に理解がない時代にマツは、幼少のとき親同士で決め

た「ろうあ者」との結婚のため養女にいく。偏見や逆境に遭いながらも前向きに生きていく。



2011年11月12日

曳家(ひきや)での引っ越し 第112回

いよいよ引っ越しの日がきた

「おーい、おる(居る)だかー?」と玄関の方から大きな声がする。

マツが玄関に行ってみると、面積の広い顔で切れ長の目、厚い唇をした中年の男の人が立っていた。

「おはよーございますだー、オラ、曳家(ひきや)の棟梁(とうりょう)だ」
と話す曳家の棟梁の声は、太くて低くドスの利いた声をしていた。

(おっかねー(こわい)感じの人だなー・・)とマツは思いながら、「よろしくお願いします」と頭を下げた。

関衛門が来て、「おー、来てくれたかー、上がってけろ!」と家の中に招じ入れ、家の引っ越しについて話し始めた。


棟梁が言った
「引いてくる家は大きい、今日は、家を上げてソリをはかせるから、加勢してくれる人数は多い方がえぇなー」

関衛門が言った
「村の人たちの幾人かに声をかけてある、もし、人数が足りねーようだったら、他にも声かけしてくるつもりだ」


そこへ小吉が関衛門の家に来た
「オラ、引っ越しを今日から手伝うぞ」

さわやかな表情をした小吉は、やる気満々でいた。

小吉が言った
「実は、オラが今日から引っ越しの手伝いをすると言ったら、他の者たちも今日から手伝いたいと言ってきたけんど、どうするだかー?」

関衛門が言った
「今日は、家を上げるから特に人数が多い方がありがてー、オメーが中心となって皆を世話してくれねーか?どうかよろしく頼む」

そう言って小吉に村人たちをまとめる役をお願いした。


関衛門は、この村で「よそ者」として見られてるので、何かをお願いするにも小吉を通してやった方が順調にいくと考えた。


棟梁が小吉に言った
「んだ(そうだ)、オラのかける号令に皆が一斉に動く必要がある、オメーが皆の動きをよく見ててくれたら助かるだー」

棟梁も小吉に皆のまとめ役を頼んだ。

監督役を頼まれた小吉はうれしくなり、「任せてけろ!」とますます気合が入った。


脇で見ていたマツは思った

(小吉は、もう、うちの家の敵ではねーよーだな・・)


引っ越し初めのこの日、たくさん降り積もっていた雪も堅雪となり、道路と田んぼの境も分からず、どこまでも平坦に見えた。


家を引いてくるには、最高の条件である。


小吉に率いられてたくさんの村人たちが、新しい家に集まった。

力自慢の男の人たちが、家を上げることに“わくわく”していた。


曳家(ひきや)たちが前もって、家を上げた時に家がゆがまないように、柱などを補強してある。


棟梁の「そこを持ちあげろー!いっせいのーそーれ!!」とドスの利いた声が響き渡る。

その声に皆が力をふるって家を持ち上げる・・・

屋根が付いたままの家が、ゆっくりと持ち上がり、曳家たちがすばやく家にソリをはかせる。


「やったどー!!」と小吉が叫ぶと、皆が「おー!!」と喜びの声を上げた。


家のすべてのポイントにソリをはかせ、ソリと家がずれないように固定する!

そして、家を引くためのロープを取りつける。

「引く距離は、全部でだいたい2kmぐらいだ、1日に進める距離は少ないが、今年の大雪でどこも平坦だから順調にいくべー!皆、よろしく頼むぞ!」と棟梁の気合いの入った言葉に皆も、「おー!!」と気合いが入った。


一方、武造とマツは、新しい家に荷物をすぐに移せるように古い家のほうで作業をしていた。

タンスの中の物も全部取り出して、整理していく・・

引き出しの奥から、小さな着物が出てきた。

(これは・・!?懐かしいなー、オラが養女に来たころに着てた着物だ・・武造がオラを着せ替え人形のようにしてったけなー・・・)と昔のことを思い出すマツ。


マツの様子を見てた武造は、、その小さな着物に紐で“蝶蝶結び”を作り可愛くした。

武造も昔のことを懐かしく思ったようだった。


2人が昔の古い着物で遊んでいるのを見たヨネは、(遊んでないで、仕事してけろ!)と言いそうになったが、怒鳴るのをやめた。


武造とマツの楽しそうな顔を見て、逆に安心感を感じた・・

(マツは結婚式のことを口には出さねーが、癒えてはいねぇー・・・けど、少しづつ・・気持ちは和らいできているだー、いつかは完全に武造のことを許せるときがくるに違いねー・・・)

ヨネはそう思った・・・

ラベル:曳家 引っ越し
posted by junko at 15:37| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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