「武造とマツの物語(新)」

【小説】 身体障害者に理解がない時代にマツは、幼少のとき親同士で決め

た「ろうあ者」との結婚のため養女にいく。偏見や逆境に遭いながらも前向きに生きていく。



2011年12月09日

家系の存続の胤がついに!第125回

洗い場で、釜の内側にこびりつき、堅くて、しゃもじでは取れないぺったんこのご飯を水でふやかして取り、それを食べるというのがマツにとってささやかな楽しみになった。

そのマツも産み月をむかえた。

家系の存続を一番願っていた関衛門は、落ち着かなくなり・・

「マツ、調子はどうだ?具合悪いところはないか?」と何度も尋ねた。

初めての出産で、幾分不安と期待を抱きながら「大丈夫だー」と応えるマツ。


「男ん子だべか?おなごん子(女の子)だべか・・?」と関衛門は一人つぶやきながら“あっちうろうろ、こっちうろうろ”している。

ヨネが言った
「どっちでもえぇーではないか、マツは元気な子を産んでくれるず」

関衛門が言った
「んだな、五体満足であれば男ん子でもおなごん子でもどっちでもえぇーな」


武造も落ち着きがなくなり、産婆が来るのを今か今かと外で待っていた。


マツの出産のため、産婆が家にやってきた・・・。

ヨネが慌ただしく動き、マツの実の母親(ハル)も手伝いにきていた。


今まで一度も経験したことのない激痛がマツを襲い・・

(腹が・・痛てー・・・)

「痛て〜・・腹が・・痛てー・・」
陣痛の間隔が近くなり、激痛に耐えるマツ・・

「オメーは、元気な子を産むんだ!しっかりしろ!」と励ますハル。


一方、部屋の外では、関衛門と武造、そしてマツの実の父親(豊三郎)が落ち着きなく、マツが出産する部屋の襖をじっと見ている・・

今か今かと待つ男たち・・・


すると突然、武造が部屋に近づき、襖を開けようとした!

無音の武造は、今マツがどうなっているのか心配で仕方なかった・・。

(現在においては、ラマーズ法という出産の方法があるが、この当時(昭和2年)は、出産に夫は立ち会うことはなかった)


「これ、武造、部屋に入ったらいけねー!」
慌てて、豊三郎が止めた。

それからしばらく武造は、“あっちうろうろ、こっちうろうろ”していたが・・・・

またもや、部屋に近づき襖を開けて中に入ろうとする・・


「武造、中に入ったらいけねーんだ!!」と豊三郎が、武造の手を引いて開けさせない。

(マツが心配で心配でならない!)と身ぶりで訴える武造・・・


豊三郎と関衛門は、武造の気持ちがよく分かった。

全く音や声が聞こえない、無音の世界にいる武造が、襖の向こうで出産に臨んでいるマツがどうなっているか、心配でしかたないことを・・。


関衛門が、武造に言った
「マツの腹の中には、神様が授けてくださった赤ん坊がいる、だから、マツが産む赤ん坊は、神様の目から見てとっても大事な命だ、神様は、マツが元気な子を産むのを助けてくれるだー!」

どうしても中に入りたがってた武造も、関衛門が言ったことで落ち着き始めた・・

それから襖をじっと見つめたまま襖が開く瞬間を今か今かと辛抱強く待ち続けた。



「オギャ〜〜〜」!!!

「産まれた!!」関衛門が大きな声で叫んだ!

関衛門の様子を見て、武造も赤ん坊が産まれたことを知った。

関衛門、武造、マツの実の父親(豊三郎)は、襖にくっ付くほど身を寄せ襖が開く瞬間を待った。


ス〜と襖が開いた!!

ヨネが言った
「元気な男ん子だー!」

「やったぞーー!」関衛門は、声を上げるのと同時に両腕も上にあがっていた!!

「武造、男ん子だ!!」関衛門がそう言うと、武造は、「神様が、マツを助けてくれた!」と言って(身ぶり)顔と両腕を天に向け、それから床に頭と両手を着き、神様に感謝した!


「もう、中に入ってもいいどー!」とヨネ。
ラベル: 家系の存続
posted by junko at 10:23| Comment(0) | 新・武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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