「武造とマツの物語(新)」

【小説】 身体障害者に理解がない時代にマツは、幼少のとき親同士で決め

た「ろうあ者」との結婚のため養女にいく。偏見や逆境に遭いながらも前向きに生きていく。



2010年09月21日

出産 第91話

「痛て〜・・腹が・・痛てー・・」
陣痛の間隔が近くなり、マツは痛さに顔がゆがみます・・

「オメーは、元気な子を産むんだ!しっかりしろ!」と実の母親がマツの手を握り励まします。

一方、部屋の外では、関衛門と武造、そしてマツの実の父親が落ち着きなく、マツが出産する部屋の襖をじっと見ています。

今か今かと待っています・・・

突然、武造が部屋に近づき、襖を開けようとしました!

無音の武造は、今マツがどうなっているのか心配で仕方ないのです。

(現在においては、ラマーズ法という出産の方法がありますが、この当時(昭和2年)は、出産に夫は立ち会いませんでした)

「これ、武造、部屋に入ったらいけねー!」
慌てて、マツの実の父親が止めます。

それからしばらく武造は、“あっちうろうろ、こっちうろうろ”してましたが・・・・

またもや、部屋に近づき襖を開けて中に入ろうとします・・


「武造、中に入ったらいけねーんだ!!」とマツの実の父親が、武造の手を引いて開けさせようとしません。

武造は、マツが心配で心配でならない!と身ぶり手ぶりで訴えます・・・

マツの実の父親と関衛門は、武造の気持ちが分かります

全く音や声が聞こえない、無音の世界にいる武造が、襖の向こうで出産に臨んでいるマツがどうなっているか、心配でしかたないことを・・。


関衛門は、武造に身ぶり手ぶりで言います、

「武造、マツの腹の中には、神様が授けてくださった赤ん坊がいる、だから、マツが産む赤ん坊は、神様の目から見てとっても大事な命だー、神様は、マツが元気な子を産むのを助けてくれるだー!」


どうしても中に入りたがってた武造も、関衛門が言ったことで落ち着き始めました・・

それから襖をじっと見つめたまま襖が開く瞬間を今か今かと辛抱強く待ちました。



「オギャ〜〜〜」!!!

「産まれた!!」関衛門が大きな声で叫びました!

関衛門の様子を見て、武造も赤ん坊が産まれたことを知ります。

関衛門、武造、マツの実の父親が、襖にくっ付くほど身を寄せ襖が開く瞬間を待ちました。

ス〜と襖が開きました!!ヨネです!!

「元気な男ん子だー!」

「やったぞーー!」関衛門は、声を上げるのと同時に両腕も上にあがってました!!

「武造、男ん子だ!!」関衛門がそう言うと、武造は、「神様が、マツを助けてくれた!」と言って(身ぶり)顔と両腕を天に向け、それから床に頭と両手を着き、神様に感謝します!



「もう、中に入ってもいいどー!」とヨネ。


ラベル:出産 陣痛
posted by junko at 14:35| Comment(0) | 武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月08日

第90話 産み月

(なんだか、肌寒いず・・)
朝晩は、うわっぱりをはおらないと寒く感じました。

その年の夏は、曇りが多く日照不足でした。

関衛門の家は、自分の所有の田んぼで初めての米作りでしたので期待していましたが、米は思うように生育しませんでした。

経済的にゆとりを取り戻すことを願って植えた稲は、不作という結果でした。

どこの家の田んぼを見回しても、米の生育が悪くその年の米は不作でした。

「今年は、米が不作だけど切り詰めたら大丈夫だ。」とヨネが言います。

(まだ、ご飯腹いっぱい食えないのか・・・)

マツは、経済的に厳しい生活が続くことを知りました。


そして、マツも産み月になります。

家系の存続を一番願っていた関衛門は、落ち着かなくなります・・

「マツ、調子はどうだ?具合悪いところはないか?」と何度も尋ねます。

マツも初めての出産で、幾分不安と期待を抱きながら応えます
「大丈夫だー」

「男ん子だべか?おなごん子(女の子)だべか・・?」と関衛門は一人つぶやきながら“あっちうろうろ、こっちうろうろ”しています。

「どっちでもえぇーではないか、マツは元気な子を産んでくれるだー」とヨネ。

「んだー、五体満足であれば男ん子でもおなごん子でもどっちでもえぇー」と関衛門。


武造も落ち着きがなくなり、産婆が来るのを今か今かと外で待っていました。


マツの出産のため、産婆が家にやってきました・・・。

ヨネが慌ただしく動き、マツの実の母親も手伝いにきてました。


今まで一度も経験したことのない激痛がマツを襲います・・

(腹が・・痛てー・・・)


ラベル:不作 産み月
posted by junko at 16:52| Comment(0) | 武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年09月04日

第89話 愛情という薬

(お父の言うとおりだ、武造はオラを嫌いではねー、好いてくれてるだー・・)
心の怪我が少し癒されたマツは、体に力が湧いてくるように感じました。

(腹が減ったず・・)
少し元気を取り戻したマツの体は、すぐにご飯を要求してきます。
お腹の赤ん坊が育つにつれ、空腹がきつくなってきました。

(釜にどんくらいこびりついてるべか・・?)

ご飯を食べながら、マツの視線は自然と釜の中に向きます・・

マツの視野の脇に茶碗が差し出されたのに気付きました!
ご飯が茶碗に半分残っていました。

ひもじく感じているマツに「これ、食ってけろ」と武造が、自分のご飯半分をあげようとしていたのです。

「武造、オメーもご飯食わねーと、田んぼ仕事するのに力が出ないではねーか!、マツ、味噌汁の具を入れようか?」とヨネが言います。

ところが、武造は身ぶり手ぶりで「マツがかわいそうだ、マツはご飯が大好きだから自分の分を半分あげる」と言います。

(武造は、オラの気持ちを分かってくれてる)
マツは、そう思い「愛情という薬」を塗ってもらったように感じました。

(でも、武造のご飯をオラが食べたら・・武造に悪いず・・)
マツが躊躇していると、

「マツ、武造がそう言ってるだー、食べてもいいではねーか」関衛門がそう言うと、ヨネも「んだ、食べたらえぇだー」と言います。

武造は、マツが食べるのを見て嬉しくなり、自分は味噌汁をおかわりして食べます。

マツは、武造のご飯半分を食べても、まだご飯が欲しくなります・・・

マツは洗い場で、釜の内側にこびりつき、堅くて、しゃもじでは取れないぺったんこのご飯を水でふやかして取り、それを食べました。

愛情という薬を塗ってもらってからのマツの心は、ふやけて“びちゃびちゃ”した冷たいご飯がいっそう美味しく感じました。

(なかなか旨いず!♪)






ラベル: 愛情
posted by junko at 16:19| Comment(0) | 武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月27日

第88話 心の怪我

「んだ(そうだ)・・結婚式は始まりに過ぎねー、と言っても・・誰だって幸せな結婚式を挙げたいと思うものだ、けど、オメーはそう出来ねかった・・・結婚という新しい人生の一歩を踏み出すときにつまづき、心に怪我を負ってしまった・・」

マツはうつむいたまま黙って聞いていました。

「けど、怪我は治らないわけではねー、時間はかかるが必ず治るだー、愛情が治してくれるだー」

マツは、武造の自分を見る純真な目、そして、自分を気遣う行動を思い浮かべます・・

(お父(とう)が言う通りだー、武造の目・・自分に対する行動で、オラ、確かに気持ちが軽くなっていっただー・・)

「オメーは、人を憎むことをしねー、そして人の幸せを喜ぶ人だ!  オメーは、自分に怪我をさせた武造を憎まねーし、きつくあたることもしねー」

そう言う関衛門の言葉に、下駄屋の女将も同じことを言ったことを思い出しました。

関衛門は、さらに続けました。
「愛情というものは、培っていくもんだー、最初から、完成された愛情はねーだー、だから、結婚式がすべてではねー、結婚式の後からが大事なことだー」」

マツは、下駄屋の女将が嫁に関して言ってたことを思い浮かべます・・

(下駄屋の家は、仲が悪そーだったなー・・・女将は、悩んでたったなー・・・)

マツは、関衛門が言ってることを理解しました。

「オラ、武造を嫌いではねーし、武造が不幸になることも望んではいねーだー」

そのマツの言葉に関衛門は微笑み、
「武造は、オメーに悪いことをしてしまったが、結婚をする前より、今の方がずっとオメーのことを好いてるだー、オメーたちは、結婚の始まりは悪かったが、夫婦で愛情を培っていって幸せになったらえぇー」

(結婚式よりその後の方が大事・・・)

マツは、この関衛門との会話で、結婚式のことが少し小さな問題に見えてきたように感じます。

(心の怪我が、少し癒えたんだべか・・・?)

posted by junko at 17:07| Comment(0) | 武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月26日

第87話 結婚式は「始まり」

「どうしたんだかー?」
関衛門は尋ねました。

マツは言葉に詰まって何も言えません・・

「オメーの心に何か辛いことがあるから涙が出てくるんではねーか・・?」

「オラ、自分でもよく分からねーだ、オラ、武造を嫌いではねー・・・でも・・」

関衛門は、そのマツの言葉ですぐに察しがつきます。
「マツ、オメーがそのように涙する気持ちは自然なものだ、泣きたいときは思いっきり泣いたらえぇー、我慢してると体に良くねー」

その関衛門の言葉にマツは、安心したのかますます涙が出てきました。


「オメーはまだ、結婚式の事が心の内で処理出来てるわけではねーんだ・・」そう言って関衛門は間を置きます。

関衛門は、ゆっくり話しを続けます
「オメーたちの結婚式のことでは、オメーに辛い思いをさせて悪かっただー、ほんとに、すまねかっただー」

関衛門が自分の胸の内を理解してくれてることを感じたマツは、少し気持ちが軽くなったように思います。

関衛門が、穏やかに話しを続けます
「オラ、結婚式の日取りをもう少し先に延ばしたらよかったと悔んだだー、武造もオメーを好いてたから、まさか、あのような事をするとは思わなかった・・武造は、あの時・・あの手紙に思いがくらまされていたんだなー・・・」

そして、関衛門は深く息をつき、それから話を続けます
「結婚式は、結婚のすべてではねー、「始まり」だ・・、オメーはその始まりで大きくつまずいてしまった・・・そのつまずきで心に怪我を負ってしまってるんだ、でも、治せる!結婚式は「始まり」に過ぎねーからな。」

(結婚式は「始まり」に過ぎない・・?)




posted by junko at 11:27| Comment(0) | 武造とマツの物語 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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